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父さんの銃
ヒネル・サーレム 著
田久保麻里 訳 白水社 1680円

玉本英子 現場日誌
おすすめ本
イラク出身の在欧クルド人、ヒネル・サーレム氏の自伝的物語。現在彼は映画監督としても知られ、作品「キロメートル・ゼロ」はカンヌ映画祭でコンペティション出品作品として上映されている。
田久保さんの翻訳が素晴らしい。おすすめ本です。
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「父さんの銃」の舞台であるヒネル氏の故郷アクレは、日本でも2年前にヒットした「亀も空を飛ぶ(監督:バフマン・ゴバディ/イランのクルド人)」の撮影場所にもなったところ。
イラク・クルド地方政府文化省は映画に力を入れており、将来的にはハリウッド映画などを、ロケ地として誘致する計画もたてている。

イラク・ドホーク在住のクルド人、モハメッド・ジャノ氏は、カメラマンとして「ナルシス・ブラッサム(監督:フセイン・ハッサン、マスード・アリフ/日本未公開)」を製作、昨年のベルリン映画祭でアムネスティ賞を受賞した。予算の関係で俳優を雇えず、両監督が主役も演じている。

ジャノ氏とは、以前クルド民兵ペシュメルガの式典取材に一緒に行ったことがある。彼は迫撃砲を撃つ兵士の真横に立ち、小型ビデオカメラを手持ちで撮影していた。しかし、その映像はぶれることがなく驚いた。
彼らのグループは地元のテレビ局で子ども番組や音楽ビデオクリップを作り、生計をたてながら、映画製作に励んでいた。ビデオクリップのレベルの高さは有名で、田舎っぽいイラク・クルドの歌のイメージを変えた。

その噂は隣国トルコのクルド人歌手にも伝わり、ビデオ製作の依頼が来るほどだった。
それでも「技術は自己流。本格的に映画を学んだことがない」と話していた。
そのジャノ氏が、チャンネルアジアの旦匡子さんの尽力により、昨年、韓国のアジアフィルムアカデミーでホウ・シャオシェンなど著名な映画監督の直接指導を受ける機会を得た。

そこで優秀さが認められ、今年4月からは韓国政府からの奨学金を得て、ソウルで勉強している。
旦さんは9・11の前にアフガニスタンのモフセン・マフマルバフ監督の映画「カンダハル」の上映権を買って、日本に紹介した人でもある。アジア映画を心から愛する彼女のような人が、埋もれそうな才能に光を当てていくのだ。
イラク国籍のクルド人監督の存在が日本で知られる日も近いだろう。

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