安全部での取り調べ過程でひどく殴られ前歯を8本失ったAさん。闇商売にかかわった容疑で90年代初めに逮捕されたという。 (1998年ソウルにて 石丸次郎撮影)

安全部での取り調べ過程でひどく殴られ前歯を8本失ったAさん。闇商売にかかわった容疑で90年代初めに逮捕されたという。 (1998年ソウルにて 石丸次郎撮影)

 

北倉(プクチャン)18号管理所出所者の証言 10
「龍城事件」
以前に書いたように、党・国家の幹部を数知れず葬り去ったことで朝鮮社会に轟いた「龍城(リョンソン)事件」が、実はでっちあげだったことが明確になったことにより、私の父の「経済的な罪」に対する「革命化」懲罰は自然に解除された。

一九九〇年代後半は、北朝鮮の政治情勢が非常に複雑な様相を呈した時期だった。後になって、人々は当時の混乱ぶりを「混乱の世」などと呼んだ。政治に縁のない人々は「苦難の行軍」とか「食糧難」期などと呼んでいた時期のことである。
まさにその頃、われわれが収容されていた鳳昌(ポンチャン)の「18号管理所」に、「龍城事件」を仕掛けた首謀者らが、別の罠にかかって続々と管理所へ送られてきたのであった。

朝鮮では周知の事実ではあるが、「龍城事件」とは一言で言うと現代版「反民生団闘争」(注1)のようなものである。
「龍城事件」事件について、今一度詳しく説明しておこう。平壌市龍城区域の君子(クンジャ)里に革命史跡館がある。そこは、祖国解放戦争(朝鮮戦争)のある時期、最高指令部をはじめとした重要機関があった場所だという。
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