主人公のチャン・キルス(17)は、「難民少年画家」として韓国、英国で何度も紹介されていた。一家の中で真っ先に中国に脱出して居場所を確保し、残りの家族を次々に中国に呼び寄せた。(撮影 石丸次郎)

主人公のチャン・キルス(17)は、「難民少年画家」として韓国、英国で何度も紹介されていた。一家の中で真っ先に中国に脱出して居場所を確保し、残りの家族を次々に中国に呼び寄せた。(撮影 石丸次郎)

 

「予定通り、お店に突入します... 」
2001年、6月26日中国時間午前10時、北京の外国大使館が集中する朝陽区亮馬河地区のカフェ――。タクシーに分乗して集まった11人――7人の北朝鮮難民一家と3人の支援NGOのメンバー、そしてジャーナリストの私――は、最後の行動確認を行った。

「予定通り3班に分かれて突入します。ビルに入ったらエレベーターホールで待ち合わせです。事務所に入れなかった組は速やかに現場を離れて○○ホテルで待機すること......」
韓国の支援団体のリーダー、文国韓氏が、昨晩から何度も確認したことをあらためて伝える。15歳から67歳までの北朝鮮難民一家7人は誰も口を開かず険しい表情のままだ。

支援団体のメンバーの一人が、日本と韓国でバックアップ体勢に入っているNGOグループに携帯電話で連絡を入れた。
「......こちらは北京ですが。予定通り今からお店に入ります。各方面予定通りでお願いします」
この電話が合図となって、各班が1~2分ほど間隔をあけて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の入るビルの門に向かう。

私は、一家のうちの最年長の67歳のおじいさんと17歳の娘の班にくっついてビルの後門に向かった――。
それから数時間後。難民一家7人のUNHCR侵入劇はビッグニュースとなって世界を駆け巡った。中国、北朝鮮両政府を慌てさせ、韓国政府内に対策特別チームができ、さらにパウエル米国務長官をして「米国政府は7人の扱いに関心を持っている」とコメントさせた「北朝鮮難民北京UNHCR籠城事件」は、こうして幕が上がったのだった。
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