20年ぶりの総選挙も、「決まり切った結果だから関心がない」と多くの人びとは言う。投票終了直前の3時半過ぎ、コピーのDVD映画を物色する人びと(フレイダン地区)2010年11月7日午後 撮影 宇田有三

 

11月7日、20年ぶりの総選挙の朝。やや靄がかかったラングーン(ヤンゴン)の下町を歩く。
6時を過ぎる頃、メガホンで投票を呼びかける声が、人のいない通りに響き渡る。
7時過ぎ、投票所の前に行くと、おばあさんが一人、熱心に掲示板に見入っていた。おばあさんにカメラに向けつつ、投票所にレンズを振ると、たちまち中から男性が2人飛び出してきた。「写真はダメだ! 」と声を荒げる。
それでも投票のようすを撮影しようと別の場所へ向かう。

今回の選挙は、外国人記者には取材許可が下りていない。政府が取材ビザを出さないため、外国の取材者は観光ビザなどで入国している。取材を許可されている地元の新聞や雑誌でさえ、投票所から50メートル以内には近づけないという。
いくつか投票所を通り過ぎる。どの投票所の入り口にも監視人がいて、なかなかカメラを取り出せない。それでも、通りすがりながら投票所をファインダーに収め、撮影してまわる。背後から褐色のバイクがついてくるのに気いた。公安の尾行だ。尾行だけならまだしも、顔写真を撮られたらあとでやっかいなことになる。

10月から、入国者に発給するビザには近影のカラーの顔写真を貼らなければならなくなった。「問題のある人物」を容易に特定するためだ。
公安をなんとかやりすごし、さらに市内をまわる。
だが、投票所の前では、カメラを提げている私の姿を見ただけで、建物の中から人が出てきて警戒するところもあった。
政府が言う「民主化移管へのプロセスのための選挙」は、かくも見せたくないものなのか。いったい誰のための、何のための選挙なのか。
<ラングーン(ヤンゴン)=宇田有三>

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