軍政の傀儡政党と対立する政党のチラシをこわごわと手にする街中の人びと。2010年10月 ラングーン市内 撮影 宇田有三

 

いよいよ総選挙まで4日となり、ラングーン(ヤンゴン)市内では軍部主導の政党、連邦団結発展党(USDP)や国民統一党(NUP)以外の候補者の選挙ポスターや宣伝カーも、時折見られるようになってきた。
11月3日の夕方、選挙前の人々の暮らしの様子を確認するため、ラングーン市内の中心部の問屋や市場が建ち並ぶ地区を歩き回ってみた。

市場に入りきれない商売人たちが、競って路上に荷物を並べ、必死でその日の生活の糧を得ようとしている姿はいつもと変わらない。じっくり観察していると、その路上の商売人たちの中に名刺サイズの選挙チラシを手にしているものがいるのに気付いた。
そのチラシを見せてもらうと、N.D.P.D(National Democratic Party for Democracy)と書いてある。

女性用下着の販売をしている女性が、やけに熱心にそのチラシを眺めていたので、その様子を写真に撮った。すると、その女性は驚いた表情で顔をあげ、「アマレー、ピャタナーシーデー(ああ、びっくりした、問題だよ)」と声をあげた。
「バピロレー ピャタナーシーラー(どうして問題なんですか)」と問いかけると、「チャウデェー(怖いよー)」と、その女性はひと言発して、両手をあわせて手錠をかけられるふりを私に示した。

この女性の脅えた言動から、軍部に対立する政党のチラシを見るだけで、反政府の立場をあらわすことになってしまうということが推しはかられる。
「公正で自由」な選挙と軍政は公言しているが、これまでの軍政による市民への締め付けや弾圧の歴史を考えると、人びとの意識が簡単には「自由」にはなれないのは、当たり前のことなのかもしれない。

今回の選挙に関して、ビルマ国外に流れ出る報道は、ビルマの人びとの選挙に対する無関心と諦めの論調が多い。
だがその原因は、実のところ、軍政がこれまで半世紀近く行ってきた恐怖政治がもとになっているように思える。
政治に関わることはつい最近までタブーであった。それが突然「民主主義だ」「選挙だ」と、自分たちを締め付けてきた軍政から広報されても、これまで力で抑え込まれてきた人びとはそうたやすく政府のいう「公正で自由」を信じることはできないのである。(ラングーン=宇田有三)

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