新たな時代の兆し(中)

※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署名を「宇田有三」に統一します。

多くの村人が利用するコッテージ(小屋)には、小屋を世話している守りもいる。僅かながら政府から給与が出るようだが、彼らは主に小屋を利用する旅人に薪を売って生活の糧にしている。

多くの村人が利用するコッテージ(小屋)には、小屋を世話している守りもいる。僅かながら政府から給与が出るようだが、彼らは主に小屋を利用する旅人に薪を売って生活の糧にしている。

 

その夜、おおぜいの村人がジャンスーさんの家に集まってきた。

即興のカラオケ大会が始まったのだ。
ジャウスーさんがカチン州の州都ミッチーナで手に入れたカチン民族のカラオケVCD(ビデオCD)をセットする。画面には歌が流れ、テンポの良い踊りが現れる。チベット人である村人は全員、麻薬撲滅に精を出すカチン解放戦線(KIOの軍組織)の兵士が銃を持って野原を駆けめぐる画面を、無言で見続けた。

車の移動が極めて難しいプータオ以北の山の中では、村から村へ、徒歩での移動が中心となる。そんなとき、山中での宿泊には、囲炉裏の備わったコッテージが用意されている。これは英国の植民地時代以降のことだいう。

車の移動が極めて難しいプータオ以北の山の中では、村から村へ、徒歩での移動が中心となる。そんなとき、山中での宿泊には、囲炉裏の備わったコッテージが用意されている。これは英国の植民地時代以降のことだいう。

次に画面に映ったのは、それまでとは趣の異なった映像だった。なんだ中国のカラオケか。えっ、違うようだ。
よく見ると、どうやらチベットの歌と踊りだ。チベット音楽が流れ、色いろ鮮やかな衣装を身につけた女性の華麗な踊りが続く。横に座っていた男の子が、一緒に歌い出す。えっ、カチンやビルマの歌じゃなく、チベットの歌なら歌えるのか。

山の麓に位置する村は、日が昇る前の朝や日が落ちた後の夕方には深い霧に包まれる。

山の麓に位置する村は、日が昇る前の朝や日が落ちた後の夕方には深い霧に包まれる。

 

そうか、そのようにして彼らは今時のデジタル機器を使って、チベットの文化や言葉を絶やさぬように彼ら自身の伝統文化を引き継いでいるのだ。
つづく
<<<連載・第17回   記事一覧   連載・第19回>>>

★新着記事