4月13日に東京・渋谷で開かれた、ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウンサンスーチー氏と在日ミャンマー人との対話集会では、スーチー氏の冒頭演説の後、質疑応答が行われました。その模様を再現、全文を連載します。今回はその5回目。
取材・訳 赤津陽治

アウンサンスーチーさんの話に耳を傾ける在日ミャンマー人たち(2013年4月13日 東京・渋谷)

アウンサンスーチーさんの話に耳を傾ける在日ミャンマー人たち(2013年4月13日 東京・渋谷)

ASSK(アウンサンスーチー氏、以下、ASSK)
これは経済についてですね。

質問
軍事政権時代、ミャンマーに対して経済制裁が行われるように、国際社会への働きかけがありました。今ミャンマーで民主化改革への流れが生まれたことには、経済制裁が最も効を奏したとお考えでしょうか。

もうひとつは、ミャンマーの民主化改革を進めるにあたって、「国内和平」と「経済・投資」の二つのうち、どちらを優先すべきでしょうか。なぜ優先すべきか、その理由も教えていただきたく思います。

ASSK
制裁についてですが、何事にも事をなすにはその時機というものがあります。時間的制限というものがあります。常に同じやり方を続けていくわけにはいきません。私たちは、政治に関して誠実に堅実に取り組もうとするならば、それを認めなければなりません。ひとつのやり方を永遠に用い続けることはできません。

私としては、現在、米国やEUが経済制裁を解除しようとしていることについて、異議はありません。これもその時期が来ているのだと思っています。

一部の、たとえば武器関連の制限についてはそのまま続けるべきですが、その他の経済関連の制限を解除することについては、私は賛成です。

経済制裁が民主化運動に役に立ったのは間違いありません。しかし、その時期においてです。今は、私たちの国は経済制裁なしでも良くなっていける国であることを示すべき時です。

言ってしまえば、私たちの国は、まだ完全には民主化されていません。まだ民主化されていないというと、一部の人たちは心配します。まだ民主化されていないのに制裁が解除されてしまって、民主化は実現するのだろうかと。そうした考えを、私は好ましく思いません。実現するように行動するのです。

国外の友人、仲間、私たちのためを思ってくれる方々は、本当によく助けてくれました。自身のために自身でやれるようにならねばなりません。そうした自信を持たないといけません。そうするのだという忍耐強さを持たねばなりません。勇気を持たねばなりません。勇気を持って、未来に向き合わねばなりません。

いつもあの人に頼む、この人に頼むではなく、自分で行動して獲得しなければならないのです。私たちを助けてくれたことは本当にありがたいことです。それを元に自分たちでさらに良くしていくのだという心意気でやっていただきたいのです。

ですから、今経済制裁を解除することに私は賛成しています。解除されるという機会を有効に生かすことを奨励したいのです。

在日ミャンマー人の質問に答えるスーチー氏(2013年4月13日 東京・渋谷)

在日ミャンマー人の質問に答えるスーチー氏(2013年4月13日 東京・渋谷)

「国内和平」と「経済・投資」のどちらが重要かといいますと、一国において起きていることは、すべて関連しています。和平と経済はまったく違うこととは言えません。全く区別できないとも言えません。和平は和平、経済は経済です。しかし、互いに影響を与え合っています。

国内和平なくして、私たちの国全体の経済発展はありえません。しかし、経済発展なくして、国内和平を維持することも非常に難しい。ですから、私たちは、国を発展させるため、国を改革していくために、さまざまな面から努力しなければなりません。容易なことではありません。

私はいつも言っています。あまり楽観視すべきではない。悲観視する必要もない。しかし、楽観的にバランスを持って見るべきです。得た機会をできる限り私たちは生かしましょう。得た機会を生かし、良くしていくためには、忍耐強さが必要です。勇気が必要です。やれるという自信がなければなりません。

国内和平は絶対に必要です。国内和平の基礎は、心的態度です。ものの考え方です。なぜならば、国内和平が実現していないのは、民族同士、きょうだい同士で意見の対立があるからです。意見の対立があるから、国内和平が実現していないのです。意見を対立させるものは何か、私たちは分析しなければなりません。

それを私たちは取り除かないといけません。それは心的態度と大きく関わっています。なぜならば、過去の負の歴史に私たちが余りにも支配されているならば、良くないからです。

私たちの過去には多くの負の歴史がありました。私たち諸民族にとって数々の痛ましい出来事がありました。それに私たちは向き合わねばなりません。多数派であるビルマ(原語ではバマー、以下同じ)人に最大の責任があると私は常に申し上げています。なぜならば、多数派であるからです。

多数派だから、どう言おうが、過去の政府はビルマ人政府でした。それは否定できません。ビルマ人が指導する政府でした。ですから、私たちビルマ人には大きな責任があります。

しかし、他の民族も協力する必要があります。ビルマ人だけではできません。チン人だけでもできません。カチン人だけでもできません。ヤカイン人だけでもできません。私たち皆が結集してやらなければなりません。かつて父が言いました。「チンがこれ、カチンがあれ(各人各説であること)」のように、お互いにバラバラのままであれば、私たちの国に発展はありません。

ですから、共通の考えや共通の目標を、私たちは構築せねばなりません。それは容易にできることではありません。しかし、努力してやらねばなりません。私は信じています。何事も容易にはできません。何事も無料では手に入りません。

何も特別なことではないはずです。どこかの店に行ってみてください。いい物ほど値が高いはずです。もっと多く支払わなければなりません。それはこの世のならわしです。ですから、私たちが望む国の和平ほど価値あるものはありません。そのために、私たちは、忍耐強さを持って、熱意を持って、信念を持って、努力を払わねばなりません。多くを払わねばなりません。払って初めて、達成できるのです。皆さん、ともに努力しましょう。

経済発展の果実や社会発展の果実というのは、それぞれの民族にとって平等でなければならないと繰り返し私は申し上げています。ですから、国際社会が投資するならば、これを絶対に忘れないでください。投資は、私たちの国の連邦としての結束に寄与するものでなければなりません。私はいつもこう言っています。

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