京都女子大の市川ひろみ教授による連載の三回目。子どもたちは、戦場で残虐行為や悲惨な情景を目にし、時に家族への残虐行為、殺害を目撃してしまうことが ある。それは大きなストレスとなり成長の遅れをもたらすこともある。また子どもたちは、平和な社会におけるモデルとなる大人像を知らないまま、暴力的な環 境を自らの思考方法、記憶に取り込んでしまい、乱暴で反社会的な行動をとる傾向があるという。(整理/石丸次郎)

小さなアルコールランプで紅茶を入れてくれたジャミラさんと娘。村の家や畑、家畜もすべて失い、逃げ延びた町でもイスラム国の砲弾にさらされる。2014年12月シリア北東部のアレッポ県コバニで、撮影玉本英子(アジアプレス)

小さなアルコールランプで紅茶を入れてくれたジャミラさんと娘。村の家や畑、家畜もすべて失い、逃げ延びた町でもイスラム国の砲弾にさらされる。2014年12月シリア北東部のアレッポ県コバニで、撮影玉本英子(アジアプレス)

 

戦場体験で発達障害、成長の遅れも
子どもにとっては、慣れ親しんだ環境や大好きなおもちゃなどを失うことは、重いストレスとなる。不安、睡眠障害、悪夢、食欲減退、遊びに無関心、発達障害、成長の遅れなどの症状が現れたり、行動が暴力的になったり、うつ状態になることもある。

殺人などの残虐行為や悲惨な情景を目撃したり、身の危険を感じたりすることは、子どもにとって大きな負荷となる。そのような負荷は、子どもの日常の活動に取り組む能力を育むことに深刻な影響を与える。

ボスニア中央部での激しい戦闘から逃れてきた避難民のキャンプの6歳~12歳の364人を対象とした調査によると、大半の子どもが、両親のうち少な くとも一人と離れなければならず、3分の2近くの子どもが、戦争で大切な人を失った。ほぼ40%が、親兄弟が傷ついたり殺されたりするのを目撃していた。

すべての子どもが重大なストレス症状を示し、94%は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の基準に達していた。9割の子どもが深刻な悲しみを経験 し、半分以上の子どもが、自分たちが幸せになることはないと自身の将来について極端に悲観的な見方を示した。自身の人生に意味はないと感じていた子ども は、37.7%にのぼる(18)。
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