「モルヒネの副作用で意識がなくなったとき、夫は右手を挙げてドライバーを回したり、電線を引っ張る動きを無意識にしておりました。頭の中でも頑張って(働いて)いた」──。(井部正之)

最高裁で国と企業の敗訴がまたも確定した建設アスベスト訴訟。写真は大阪高裁判決に臨む原告らのようす

◆「ボールは国と企業に」と弁護団

こう声を震わせながら語ったのは高木敏子さん(71歳)。

夫の一夫さんは元電気工で、アスベスト(石綿)が原因とみられる悪性胸膜中皮腫を発症。4年前の2017年1月27日に66歳で亡くなった。

建設現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けたとして、国や建材メーカーに損害賠償を求めた集団訴訟の1つ、関西訴訟(2陣)の原告の1人だ。現在では敏子さんが訴訟を引き継いでいる。

1陣訴訟では近畿・四国の元労働者や遺族32人が国と建材メーカー22社に7億1200万円の賠償を求めており、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は2月22日、国の上告を退けた。建材メーカー7社の敗訴も確定した。

同24日午後に大阪市内で開催された記者会見で、敏子さんは冒頭の発言をした。

一連の訴訟で国は1審2審で14連敗。建材メーカーは8連敗。最高裁決定による敗訴確定も国は今回で3件を数える。同じく建材メーカーの敗訴確定は2件目。

この間の敗訴決定で田村憲久厚生労働大臣は「責任を感じ、深くお詫びを申し上げます」と謝罪したが、具体的な解決策については明言していない。

こうした経緯から原告側弁護団の小林邦子弁護士は、「国と企業は(裁判で)負けても負けても和解しなかった。10年間、被害者は酸素ボンベを引きずって裁判所に通った。最高裁で結論が出たのだからボールは国や企業にある」とかねて求めている建設アスベスト被害者の補償基金制度設立を改めて強く迫った。

村松昭夫弁護士は「国の責任、企業の責任についてはほぼ確定的な判断が出た」と指摘し、こう続けた。

「環境曝露や(労働者の)家族内曝露などの問題は国が規制をきちっとすればでなかったはず。今回の最高裁決定を受けて、国は(かねて不十分と指摘されている石綿健康被害)救済法の抜本改正まで踏み込むべき」

冒頭の発言をした敏子さんをはじめ、多くの原告はいまだ係争中のままだ。敏子さんはこうも訴えた。

「アスベスト被害は本当に悲惨です。数十年の潜伏期間を経て症状が現れ、あっという間に死んでしまいます。夫も自分のことばでこんな被害に遭ったことを訴えたいはず。こんなに救済を長く待たなければならないというのは本当に理不尽です」

1日も早い、1人の被害者も置き去りにしない解決が求められる。