首都ネーピードーでは警察の発砲により、デモ参加者の1人が重体になるなど緊張状態が続いている。(地図作成:アジアプレス)

◆「軍が引き下がることは決してない」 流血事態を懸念する市民

ミャンマー各地の人たちと連絡を取り合った。

首都ネーピードーの建設省で働く20代の女性技師は、2日からCDMやデモに参加し始めた。建設省では幹部も含め6割ほどの職員がCDMに賛同し、出勤を止めているという。
「これまでコロナに感染しないように気を付けてきたが、今はコロナのことなんて頭にない。コロナにかかるよりも軍事独裁政権になる方がもっと怖い」と話した。

抗議運動が盛り上がるにつれて、治安当局による弾圧も強まり、ネーピードーでは9日、警察が放った銃弾が19歳の女性の頭に命中し、重体に陥っている。主要都市には、夜間外出禁止令と集会禁止令が出されているが、国民の抵抗運動は収まりそうにない。

1988年の民主化運動と2007年のサフラン革命を経験したシャン州在住の男性(54歳)は、
「軍はしばらく自由にやらせて、いずれ発砲を始めて、沈黙させるだろう。軍が引き下がることは決してない」
と話し、かつての抵抗運動が弾圧されたように流血の事態になることを懸念する。

2月1日の議会に出席するためにネーピードーに集まっていた議員たちは、一時軟禁状態におかれていたが、議員宿舎からの退去を命じられた。国民民主連盟(NLD)の議員たちは、連邦議会代表委員会(CRPH)を組織し、ズームを使ったオンライン会議を実施。アウンサンスーチー氏を再び5年間国家顧問とする法律を可決したと発表した。

全権を掌握したミンアウンフライン国軍総司令官は、国家行政評議会という統治機関を設置。大臣・副大臣を新たに任命し、新体制への移行を進めながら、NLD勢力の一掃を図っている。

ウィンミィン大統領については、コロナ禍で規制があるなか、昨年の選挙運動期間中にNLD一行の車列を出迎えたとして、災害管理法違反で訴追。スーチー国家顧問については、住居で発見されたトランシーバーが輸出入法違反にあたるとして訴追した。

現在、スーチー女史の母親の名を冠した「ドー・キンチー財団」事務所を軍が捜索し、関係者を連日尋問しており、より重い罪を捏造するための材料を集め、徹底的に弾圧していく可能性がある。

国軍は1962年と1988年にクーデターを起こして全権を掌握した。しかし、今回のクーデターでは、憲法を廃止しておらず、あくまでも憲法に則ったかたちでの全権掌握であると主張している。

2008年憲法を1枚のレコードに例えるならば、憲法というレコードを壊すことなく、裏返して使用しているということだ。これまでが平時バージョンのA面で、現在は有事バージョンのB面になったといえる。

◆「憲法違反」と法律家は指摘

しかし、この全権掌握を憲法違反だと法律家は指摘する。ウィンミィン大統領らの弁護人を務めることになっているキンマウンゾー弁護士は、ウィンミィン大統領が現在も大統領職にあると主張する。

その根拠は、第418条B項の
「国軍総司令官に国権が委譲された日から、憲法にいかなる規定があろうとも、大統領および副大統領を除いて、憲法に則って議会の承認により任命された機関の構成員、自治管区指導部、自治地域指導部は、職務を停止されたものと見なす」
という規定で、
「大統領は依然として大統領職にあり、副大統領が暫定大統領になったことで直ちに大統領が大統領職を失うことはない」
と、キンマウンゾー弁護士は述べている。

また、憲法第215条の規定から、大統領は議会の弾劾によってしか解任されることはないと主張している。

憲法第73条A項は、「大統領が任期満了前に辞職、死亡、永久的障害または何らかの事情のため、大統領職に欠員が生じた場合、2名の副大統領のうち、大統領選出の際に2番目に多い票を得た方が、暫定大統領を務める」となっている。ウィンミィン大統領は今回、辞職したわけでもなく、死亡したわけでもなく、永久的障害を負ったわけでもない。

「何らかの事情のため」という文言の意味については、憲法は言及していないが、その解釈については、憲法裁判所で判断されるべきものであって、国軍が恣意的に解釈できるものではない。

大統領選出の際に2番目に多い票を得た副大統領は、軍人議員に選出されたミィンスウェ副大統領であるが、同副大統領が暫定大統領になった点が、憲法に合致したものであったか疑問だ。その点が違憲であれば、その後の非常事態宣言と国軍総司令官への全権委譲の過程はすべて無効となる。

2008年憲法の「A面からB面への移行」の過程は、憲法に則ったものであるか甚だ疑問であり、現在の国軍総司令官が進める新体制に正統性があるとは思えない。

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