(参考写真)農村で仕入れた穀物を市場に持って行く途中、安全員の取り締まりに遭遇した人。2008年8月平壌市郊外で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

◆警察は賄賂なしで生きて行けるか

北朝鮮当局が社会安全員(警察官)の不正行為に対する処罰強化と思想教育の徹底を決めた。警官による賄賂要求などの腐敗現象のみならず、家族の不良行動についても連帯責任を問うという厳しいものだ。公安機関の引き締めが目的だが、当の警官からは不満と反発の声が上がっている。(カン・ジウォン/石丸次郎

1月後半のある日、北部地域に住むアジプレスの取材協力者は、よく知る警官から憂鬱な悩みを聞くことになった。1月25日に行われた安全局内の朝会で、次のような通告があったからだ。

「賄賂を受け取って統制機関の権威を落とすことは許さない。今後、安全員の不正は厳重に処罰し、任務遂行強化を厳格に行う。人民から信頼される組職になるよう思想・教養事業を強化する」

北朝鮮では、警官が賄賂を受け取って違法行為に目をつぶったり、住民から金品をたかるために、わざと検挙したりするような腐敗現象は1980年代から茶飯事であった。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミック発生後、社会の様相が大きく変わった。あらゆる分野でコロナ防疫が最優先となり、警察も「非常防疫指揮部」という新たな組織の統制を受けることになった。

また、社会秩序違反を取り締まる「非社会主義掃討作戦連合指揮部」(以下、「非社指揮部」)が生まれ、党や行政の役人、警官を凌駕する強い権限が付与された。

警官の不正腐敗についても、住民が「非社指揮部」に訴える体系ができたが、協力者によれば「実際に警官が処罰された例というのは聞いたことがなく、質の悪い警官は減らなかった」という。

ところが今回の決定は厳格だ。
「不正行為を申告された警官は、降格、解職、党籍剥奪などの処罰を容赦なく下すと、会議ではっきり宣告されたそうだ」

(参考写真)街頭で取り締まりにあたる安全員。2011年1月平壌市郊外 撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

◆警官の生活苦

警官たちの公的な待遇が最近になって悪化している。協力者たちが各地で調査したところ、1年くらい前まで100%出ていた食糧配給が昨年から減らされ、現在は、本人分は出ているものの、家族の分は半月しか出ていないという。

社会安全部は独自の副業地(専用の畑)を全国に持っており、そこで栽培された野菜などの副食物が供給されてきた。問題なのは現金収入だ。国定の給与は数千ウォンにしかならない。ちなみに現在100円は約5800ウォン。

市場では国産の歯磨き粉が1万ウォン(約180円)する。国定給与の数カ月分だ。警官をはじめ役人たちは、現金収入を得るために不正を働かざるを得ない構造があるのだ。

協力者の知人の警官は、次のように不満と不安を吐露したという。

「国家は警官にまともな待遇を与えることもない。それなのに、上からは、やれ組織にガソリン代を入れろ、タバコを持って来いなどの『宿題』を課される。それで賄賂を受け取るなと言う。どうやって暮らせというのか」

◆家族の不良行為も許さない

綱紀粛正の対象になるのは、警官本人だけではない。家族の不良行為についても連帯して責任を負わされることになった。

例えば非合法の韓国ドラマの視聴。取り締まる立場にあった警官や党組織の幹部家族たちの間で密かに流行していた。

「警察幹部の家族であっても、非社会主義行為は絶対に容赦しないと通告されたそうだ。『連合指揮部』に睨まれないよう、警察内でも、気を付けなければと恐怖と緊張が走っているそうだ」

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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