◆「スパイ防止法」制定に前のめりの高市政権

高市首相は衆議院解散の理由を述べる記者会見(1月19日)で、「インテリジェンス・スパイ防止関連法制の制定」と「国家情報局の設置」が急務だと強調した。すでに昨年10月、自民党と維新の会は「連立政権合意書」に「インテリジェンス政策」の項目を設け、「インテリジェンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国代理人登録法及びロビー活動公開法等)」について、「検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」ことを掲げている。

「スパイ防止法」を制定すべきと唱える側がよく持ち出すのは、「日本は外国による諜報活動が非常にしやすいスパイ天国だ」という主張である。

しかし昨年8月、山本太郎参院議員(れいわ新選組)が提出した、「日本はスパイ天国」という評価について政府の考えを質す質問主意書に対し、当時の石破茂内閣は、政府は「外国情報機関」の「情報収集活動」への防諜(スパイ防止)対策の強化を重視し、「違法行為の取締りの徹底等に取り組んで」おり、日本が「各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家であるとは考えていない」という答弁書を閣議決定し、「日本はスパイ天国」との言説を否定した。

衆議院が解散された日の国会議事堂(2026年1月23日撮影)

それは、特定秘密保護法、重要経済安保情報保護活用法、日米地位協定に伴う刑事特別法、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(MSA秘密保護法)など、各種の国家秘密法制や国家公務員の守秘義務も定めた国家公務員法、自衛隊員の守秘義務も定めた自衛隊法がすでに存在するからだろう。

これらによって、防衛、外交、スパイ(「特定有害活動」)防止、テロ防止、安全保障に影響のある経済情報、米軍の軍事機密などに関する情報の漏洩、脅迫・窃取などの不正行為による取得、漏洩や取得の共謀・教唆・扇動、探知などの行為を罰則付きで取り締る防諜体制もできている。

これら各種の国家秘密法制は、政府の情報統制と国民・市民監視につながり、「知る権利」と表現・言論の自由を侵害するなど、問題だらけの法制度だが、政府の立場からはスパイ防止に有効と見なされていることが、前出の石破内閣の答弁書からはわかる。

したがって、各種の国家秘密法制に新たに「スパイ防止法」を加えなければならない立法事実(法律を制定しなければならない前提、根拠となる社会状況などの事実)があるとはいえない。しかし、自民・維新連立の高市政権は「スパイ防止法」制定に前のめりだ。その狙いはどこにあるのだろうか。(つづく)

吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。

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