野中章弘×綿井健陽 対談(1)
なぜ自衛隊はイラクに派遣されるのか。
米軍のバグダッド空爆開始から現地で取材を続けたジャーナリストが派兵の論理を撃つ!

20031226_01_06.jpg*野中 自衛隊がイラクのサマワに派遣されることが決まった。12月初旬、綿井君が実際に現地を取材した印象はどうですか?
*綿井 バグダッドに比べると緊張感や緊迫感はほとんどないですね。警察や市民に訊いても一般レベルでの治安はいいという認識がほとんどです。平和という言い方はそぐわないけど、平穏で穏やかだったという印象です。
ただひとつ気になるのは、「サマワは危険なのですか?」という訊き方をする人が多いけれど、現時点で安全だということと、自衛隊が派遣された状態で安全かどうかは別の話です。民間人がサマワに行っても活動はできますし、日本人は歓迎されています。しかし、武器を持った軍隊が行けば、街の雰囲気は変わる。

*野中 今回の綿井君の取材に関しては、象徴的な出来事がふたつあったね。ひとつは「自衛隊の皆様歓迎」という横断幕の日本語に誤訳があることを指摘したこと。もうひとつは現地視察を行った公明党の神崎代表が、オランダ軍司令官の話を持ち出して「現地は比較的安全」と言ったことに反論したこと。横断幕は「自衛隊は歓迎されている」という論拠に政府が使ったけど、そのあたりをもう少し詳しく話してください。
*綿井 横断幕は11月末の時点で、3枚あった。地元の宝石店がかかげたのです。日本から支援がくると知って、アラビア語と日本語で文字が書かれています。そのうちのふたつは「日本の友人の皆様にイラク人を代表し親愛のメッセージを送ります」「私し達(原文のまま)も協力します。

皆で町の再建を」と書いてあるのですが、残りの一枚は日本語の部分に「ようこそ自衛隊の皆様」と書いていた。ところが調べてみたら、実はそこに取材に来た日本人のジャーナリストに書いてもらったという話なんです。日本語の元となったアラビア語のほうでは「ようこそ日本人の皆様」と書いてあって、自衛隊や軍隊という文字はない。誤訳です。サマワの人たちは「日本」と「自衛隊」を完全にダブらせて歓迎しているわけではないんです。

むしろ、日本の軍隊が来ることを質問してみると、「軍隊はいらない。電気や水道をなおすのなら、民間人のほうがいい」という人が多かった。ところが、日本では、横断幕が出るほど歓迎されているという宣伝になり、政治的に利用されていた。マスメディアはあの横断幕の写真や映像を流してきたんですけれど、あの横断幕はどうやってできたのか。誰が書いたのか。現地の人はどう思っているのか。このあたりの取材をしていないから、読者や視聴者に誤解を与えているのではないかと思う。
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