※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネ  ームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署  名を「宇田有三」に統一します。

ビルマ(ミャンマー)では、今秋20年ぶりに総選挙が予定されている。2007年秋の民主化要求デモを軍靴で踏みにじった軍事政権は、しばらく外国人の入国を厳しく制限していたが、選挙が近づくに伴い観光や商用の入国を認めるようになった。5月、ヤンゴンに入り現状を取材した。

今年は40年ぶりの酷暑で、連日気温は45度まで上がる。停電が頻繁に起こるヤンゴンで秋に行われる総選挙について市民に聞くが...。
「次の選挙で、今の政治体制の何かが変わるなんて誰も思っていないと思う」(タクシー運転手)

「選挙をすることに賛成とも反対とも言えない。政治に関わる話はご免こうむる」(喫茶店主)
ほとんどの市民は政治の話を極力避けようとする。軍政の横暴や生活悪化についても、怒りを口にするのをためらう。2年半前のデモで、ビルマでは尊敬の対象である僧侶までが、容赦なく殴られ連行されたのを目の当たりにしたヤンゴン市民は、現在の軍事政権下で政治に関わることがどれほど危険なのか身に染みているのだ。

2008年5月、死者行方不明14万人の犠牲者を出したサイクロン「ナルギス」禍の直後、救援活動よりも体制維持を優先させた軍政は、総選挙の準備のために新憲法制定の国民投票を強行した。軍政幹部の一人テインセイン首相は今年4月、軍の傀儡である「連邦団結発展党(USDP)」を創設し、選挙に向けて政党登録をした。軍政は着々と、形だけの選挙の日程を進めている。

一方、アウンサンスーチー女史が書記長を務めるNLD(国民民主連盟)は、結果がどうであれ、軍部が実質上権力の座に居座り続けることになる新憲法の下では選挙はできないと、3月末、政党登録を拒否して選挙のボイコットを発表した。
NLDの主張を取材するため事務所に向かうと、建物に近づく記者はすぐに私服の警察官に囲まれしまった。

▲NLD本部近づこうとした記者を取り囲み顔を撮影しようとする私服警官たち。5月、ヤンゴンにて。 撮影:宇田有三 c宇田有三

外国人の立ち入りが厳しく制限されている新首都ネピドーを取材した地元記者によると、国会議事堂を建設中の技術者の話として「大統領執務室の内装準備をしていると、タンシュエ議長(軍政のトップ)の家族の一人が頻繁にチェックに訪れ、あれこれと指示を出す」のだという。
匿名を求めたこのビルマ人記者は「総選挙の日程も決まっていない、大統領の選出ももちろんこれからだ。しかし、大統領は既にタンシュエに決定しているも同然。それが今回の総選挙の正体だよ」
と小声で言った。
(ヤンゴン 宇田有三)

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