「認知症の人と家族の会」大阪府支部の代表、坂口さん。 「認知症は老化の一種」と話す(撮影・矢野宏)

「認知症の人と家族の会」大阪府支部の代表、坂口さん。 「認知症は老化の一種」と話す(撮影・矢野宏)

◆地域で見守る体制を築くことが必要

認知症による徘徊が原因で鉄道事故に遭って死亡した夫。事故から7年後、91歳の妻は監督責任を問われ、裁判所から360万円の支払いを命じられた。片や 損害賠償を求めたJR東海の総資産は5兆円を超える。これまで社会が見過ごしてきた認知症が高齢者の7人に1人を占めるようになった。決して他人事ではな い。(矢野宏)

「まさに驚きであり、怒りであり、嘆きでした。認知症の人を抱える家族の中からは『今後、家で介護できなくなる』という声が上がっています」
3年前に認知症だった妻の光子さん(享年76)を看取った坂口義弘さん(77)は憤然と語る。

愛知県大府市で認知症の91歳の男性が電車にはねられて死亡した事件をめぐり、JR東海が遺族に損害賠償を求めた控訴審判決。名古屋高裁は4月24日、介護にあたっていた妻に民法上の監督責任があったと認定して360万円の賠償命令を出した。

事故が起きたのは2007年12月。当時、男性は「要介護4」であり、妻も要介護認定を受けていた。夫は、妻がまどろんだ数分の間に家から抜け出した。
一審の名古屋地裁判決では、横浜市で暮らす長男の監督責任を合わせて720万円の賠償を命じていた。高裁は妻の責任だけを認めて減額したとはいえ、卒寿を超えた年金生活者にとっては払えるような額ではない。

「認知症患者の保護について、家族だけに責任を負わせるのではなく、地域で見守る体制を築くことが必要だという流れができて来たのに、高裁判決はそれに逆行するものです」

坂口さんは、公益社団法人「認知症の人と家族の会」大阪府支部の代表。「呆け老人をかかえる家族の会」として1980年に結成され、2000年の介 護保険制度開始に合わせ、電話相談(0120・294・456)を開設。06年には名称変更し、現在は47都道府県に支部がある。

会員数は1万1000人。5月14日には、名古屋高裁判決に対する見解を発表している。 <高裁判決は、「徘徊を防がずJRに損害を与えたのは家族 の責任」と断じた一審判決と、本質はなんら変わっていない。家族にとっては、裁判所が認知症の人と介護の実態に目をつぶり、二度にわたって家族を責めたと 感じる非情な判決>と抗議した上で、社会的救済制度の必要性を訴えている。
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