◆町にいれば恐怖支配、脱出できても過酷な難民生活

2014年12月、トルコ・スルチの村に並んでいたたくさんのテント。シリアから逃れてきたクルド人住民が、親族のもとに身を寄せていた。村のすぐ先の国境線を越えたシリア・コバニでは、過激組織「イスラム国」(IS)とクルド組織・人民防衛隊(YPG)とが激しく戦い、砲弾が着弾する轟音が響き渡る。

「自分たちは脱出できたが、ISに町を制圧され、逃げ出せない住民は恐怖に怯えている」
避難してきた老人はそう言った。

シリアに接するトルコ・スルチの農村に逃れたクルド住民。国境を隔てて暮らす親戚の農家のもとに身を寄せていた。(2014年12月撮影)

シリアに接するトルコ・スルチの農村に逃れたクルド住民。国境を隔てて暮らす親戚の農家のもとに身を寄せていた。(2014年12月撮影)

シリア・マンビジからトルコに逃げてきたベカル・アハメッドさん。この道路のすぐ先はシリア国境。クルド組織とISとの激しい戦闘が続いていた。(2014年12月撮影)

シリア・マンビジからトルコに逃げてきたベカル・アハメッドさん。この道路のすぐ先はシリア国境。クルド組織とISとの激しい戦闘が続いていた。(2014年12月撮影)

当時、シリア北西部のマンビジから逃れてきたばかりだった公務員のベカル・アハメッドさん(33歳)は、ISは広場で公開処刑を繰り返していたと話した。クルド組織のスパイとされた男性は、大鉈(おおなた)で斬首され、死体は3日間、木にくくりつけられ晒された。チュニジアやモロッコからの戦闘員が我が物顔で歩き回っていたのが異様だったという。

シリア北部に位置するマンビジの町。ISが制圧すると町に黒い旗をたててまわり、独自解釈した「イスラム法」を布告し、力による統治をはじめた。(2015年IS写真)

シリア北部に位置するマンビジの町。ISが制圧すると町に黒い旗をたててまわり、独自解釈した「イスラム法」を布告し、力による統治をはじめた。(2015年IS写真)

◆外国人男児をIS思想で教育

一方で、ISはマンビジを含む支配地域の市民生活の様子を紹介する宣伝写真や動画を、ネットで公開している。そこに映るのは、彼らが「理想」とする統治のもと、平和に暮らす市民の姿や、楽しそうに授業を受ける小学生たちの姿だ。そのなかにはウイグル人など中央アジア系の子どもたちも登場する。戦闘員志願者とともにシリアに家族で「移住」してきた外国人の子どもたちを集めた施設とみられる。男児は「小さな獅子」と呼ばれ、将来の戦闘員として教育され、「戦って死ぬことは名誉の殉教」と教え込まれる。

マンビジでは、家族とともにシリアに入った外国人戦闘員の子どもたちも多数暮らす。写真はISが「礼拝する子どもたちの様子」として伝えたもの。中央アジア系のように見える。(2015年IS写真)

マンビジでは、家族とともにシリアに入った外国人戦闘員の子どもたちも多数暮らす。写真はISが「礼拝する子どもたちの様子」として伝えたもの。中央アジア系のように見える。(2015年IS写真)

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