ミャンマーラカイン州・シットウェーの難民キャンプで(撮影:宇田有三)

ミャンマーラカイン州・シットウェーの難民キャンプで(撮影:宇田有三)

<特別連載>ミャンマーのロヒンギャ問題(1)へ

Q. でも、ロヒンギャ・ムスリムたちは、自分たちがそこに昔から住んでいる「民族」と主張しないと、安心して暮らせないと危機感から、そういう主張をしているのでしょう。
A. そういう面が強いと思います。 私自身2009年~2010年と2012年、バングラデシュの難民キャンプ(公式難民キャンプ1箇所、非公式難民キャンプ2箇所)、難民キャンプに暮らしていない商売人のロヒンギャと話をしました。

そこで彼らのアイデンティティは、やはり「民族」よりも「イスラム教徒」でした。大多数がそうでした。ただ、外国人と接触することに慣れているロヒンギャたちが「民族としてのロヒンギャ」を強調したこともありました。

また、2015年10月、ラカイン州の州都に作られたロヒンギャ難民キャンプに入りました(彼らは2012年に起こった事件で、事実上、一定の地域に閉じ込められるという状況に置かれています)

そこで私が、一番興味があったのは、やはり彼ら彼女たちが自らのアイデンティティをどのように思っているかでした。そこで、「あなたたちは、『ロヒンギャ・ムスリム』と呼ばれたいのか、それとも『ロヒンギャ人(民族)』として呼ばれたいのか、どちらなのか?」と聞き回りました。

答えはやはり、「ロヒンギャ・ムスリム」でした。

Q. では、「ロヒンギャ人(民族)」ではなくムスリム人の一部として「ロヒンギャ・ムスリム」として認めるのがいいのでは?
A. しかし、これまで国内外で「ロヒンギャ」を民族として扱ってきた経緯があるので、そう簡単にはいかないようです。ミャンマー国内では、「国際社会はムスリムの声ばかり取り上げる」という不平不満の声が広がっています。そのため、国内では「ロヒンギャの窮状を解決する=ロヒンギャ民族という主張を認めてしまう」という危惧があるのです。

Q. アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が政権を取ったからといって簡単に解決の道が示せるのではないですね。
A. 簡単ではありません。

スーチーさんも最近、この問題は政治の問題であり、emotion(感情) の問題もあると表明しています。あと、海外のメディアや援助機関さらに支援者たちが、「ロヒンギャ問題」を解決するために偏った情報に基づいて活動を続け、そのことがミャンマー人やラカイン人の反撥を引き起こし、ミャンマー人、ラカイン人のフラストレーションを高めることで解決の道を難しくしています。

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