(※2003年初出のアーカイブ記事。情報等は当時のまま)

◆「夫殺し」ザルミーナ事件

ザルミーナの一家が暮らしていた家。すでに廃屋となっていた。隣人たちのあいだにもザルミーナの悪い評判は知れわたっていた。(2002年4月撮影:玉本英子)

ザルミーナという女性はどういう人物だったのだろうか。
カブール西部のダルラマン地区は、内戦で最も激しく破壊された地区のひとつだ。

砲撃で建物の壁は崩れ落ち、ブロックの瓦礫が広がる。そこからほど近いところに、ザルミーナが暮らしていた家はあった。
高い土塀に囲まれた一軒家で事件が起きたのは、1997年7月のある暑い日の深夜のことだった。

寝室でぐっすりと寝込んでいた夫、アロザイ(38)の頭に、5キロのハンマーが振りおとされた。
流れ出る血で布団は赤く染まった。
「妻にやられた」とアロザイは言い残し、病院で息絶えた。

治安警察はただちに妻ザルミーナを殺人容疑で逮捕する。
最初、私はこの殺人事件を、噂に聞いた「夫の暴力に耐えかねた妻の夫殺し」だと思っていた。

しかし、隣人たちに聞いてみると意外な事実がわかった。
「夫はいい人だった。ザルミーナがお金ほしさに長女をタリバンと結婚させようとしたことがあったが、夫はそれをやめさせていた」

「あいつは悪い女だった。夫以外の男と付き合っていた」
ザルミーナは肌が陶器のように白く、琥珀色の大きな瞳が美しい小柄な女性だったという。しかし「いかがわしい女」という評判も絶えなかった。

夫が殺された部屋。事件後、凶器となったハンマーは庭の井戸に棄てられたという。(2002年4月撮影:玉本英子)

ザルミーナが住んでいた家は空き家になっていた。私は隣人の案内でハシゴを借り、高い土塀を乗り越えて事件現場となった家の中へ入った。
床のところどころが抜け、天井も落ちかけていた。家具は残っておらず、薄汚れた窓ガラスから陽が差し込んでいた。壁には色あせたポスターが一枚貼ってあった。メッカの写真だった。

隣家の男が教えてくれた。
「この場所で、夫を殺したのさ」
殺人現場となった六畳ほどの寝室は、じっとりと湿ってかび臭い。さらに中庭に出ると、大きな井戸があった。

犯行後、ザルミーナが凶器のハンマーを投げ入れたという。深い井戸の底は暗くて何も見えない。それはまるで事件の闇を映し出しているようだった。

◆「一族の恥」

警察官だった夫、アロザイ。ザルミーナに関する悪いうわさで、親族から責められることもあった。

ザルミーナ・ハズラットは1963年、厳格なパシュトウン人の家庭に7人兄弟の三女として生まれた。
16歳で同郷の警察官アロザイ・アロウディンと結婚する。しかし彼女は夫の家族からは「淫らな女」と言われていたという。結婚前に、妊娠していることがわかったからだ。

夫アロザイの兄であるモルザック(47)は言う。
「アロザイは美しいザルミーナを愛していた。だから私たちは罪を許したんだ」
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