◆息子が戦死し失意で精神を病んだ母親も

吉州郡では、こんな事例があったという。

「一人息子をロシアの戦場で失って精神を病んだ母親が、息子に似ているといって、息子と背格好の似た人を見かけては追いかけ回していたそうだ。国家は治療してやるといいながら、精神病院に送ったということだ。

父親は、人生を諦めたかのように、毎日酒浸りになって仕事もせず過ごしているという。戦死者家族を全員平壌に連れて行くと言っているのは、こうした問題を(外に見えないように)管理しようとしているのではないか。こんな話が出回るから、心配する親たちが絶えない」

手榴弾で自爆した戦死者の名を紹介する朝鮮中央テレビの番組。19歳のウ・ウィヒョクと20歳のユン・ジョンヒョクとある。同放送が2025年8月22日に放映した番組より

◆息子が入隊する親に特別休暇、大学進学のインセンティブも

協力者によると、当局は入隊に際して、今年は優遇策を準備しているようだ。

「企業では、入隊する子供がいる家庭には出発するまでの間、休暇を与えている。対象の家族は、市内の宿泊施設や便宜奉仕施設(食堂など)で優先的にサービスを受けられる。ただ、入隊者1人に家族1人まで無料で、残りは金を払わないといけない。また、余裕がある企業は食糧を渡している所もあるが、できないところの方が多い」

さらに、5年の郡服務を経た後、優秀な若者を大学進学させることになったという。アジアプレスの調査では、昨年の軍服務期間は、男子は義務制で10年、女子は志願制で7年だった。除隊する頃には、男子は28歳、女子は25歳前後となってしまうため、勉強を望む若者にとっては、服務5年で大学進学できることは魅力的に映るだろう。

次回は、ロシア派兵をきっかけに始まった新しい「英雄神話作り」が生む悲劇と危険性について、北朝鮮で精鋭部隊に所属していた脱北民の分析を紹介したい。(石丸次郎)

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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