【この日、警察が無料で配布していた号外。年末のアーシュラーの抗議デモの参加者を特定する写真が7ページに渡って掲載され、市民に通報を促している】

テヘランつぶやき日記
大村一朗のテヘランつぶやき日記 ・イスラム革命勝利31周年記念日(3)  2010/02/11
昼過ぎ、大統領の演説が終わると、アーザーディー広場へ向かう人並みより、広場から戻ってくる人並みの方が多くなった。

あと数人にインタビューしてから職場へ戻ろうと思った矢先、携帯をアスファルトの地面に落としてしまった。それ以降、どのボタンを押して反応しない。買ってまだ3ヶ月しか経っていないのに......。そんなことより、今日撮った写真も、録音したインタビューも水の泡になってしまった。

肩を落としながらも、なんとかゴールのアーザーディー広場に到着する。人並みも減り、歩行者天国だった通りには市バスが走り始め、辺りは祭りの後のように、路上に散らばった無数のポスターやゴミが、雨交じりの強い風に舞っている。もう何も起こりそうにない。そう思い、職場へ戻ることにした。
乗ったタクシーの運転手は、僕が記者証を首から提げているのを見ると、行進の様子はどうだったかと尋ねてきた。

「なかなかの人出でしたよ」
「騒がしくなるのはこれから夜にかけてさ。今ごろヴァリアスル広場やアーリアシャール広場では衝突が始まってる頃さ。見なよ」
見ると、治安部隊のバイクが数十台、市街西部のアーリアシャールに向かって疾走してゆく。
「死者が出なければいいけど」

「死者は出ないに越したことはないけど、彼らには声を上げる権利があるんだ。その権利を奪われるのなら、路上に出るしかないじゃないか」
「お子さんは?」
「いるよ。一人は大学生だ」
「デモへは?」

「行くなと言ってあるさ。今日みたいな日は特に、家にいろと強く言ってきたよ」
運転手が言っていたように、この日の午後、市街数箇所で小規模な衝突があったらしい。
しかし、この晩は、数日前から続く妨害電波によって、BBCやVOAをはじめとする衛星放送の主要なチャンネルはまったく映らず、改革派のデモ参加者が撮影したデモの様子を確認することも出来ない。

ネットもメールも規制によってほとんど繋がらない。デモに参加しようとした改革派の指導者が体制派のグループの襲撃を受けて負傷したことや、多くの改革派のデモ参加者が拘束されたことだけが、配信記事で確認できただけだ。せっかくの記者証も、まったく意味をなさない一日になってしまった。

一方、国営メディアでは、革命記念日の行進に数百万人の大々的な参加があったとし、国民の団結と連帯を内外に誇示する報道が繰り返しなされた。
情報を完全に閉ざされ、国営メディアの勇ましい声だけが鳴り響くこの国で、改革派も体制派も、自分の信じたいと思う情報だけを頼りに、相手への敵意をたぎらせてゆく。こんな状況で、どんな和解の糸口が見つかるというのだろう。
(おわり)

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