第3回 寄り添い続けたカメラが紡いだもの
◆子どもたちの日常を見つめる中で何が見えてきましたか?
刀川
朝起きて、ご飯を食べて、学校へ行って、帰ってきて、一緒に宿題をして、また、夕食をつくって食べて、一緒に絵本読んで、一緒に寝るっていうことが映画のなかでは繰り返し出てきます。『隣る人』では日常の細部の大事なことを繰り返し描いています。

20120813_apn_tonaruhito_005たとえば、保育士のマリコさんが休みのときに、マリナとムツミはマリコさんの布団を取り合うんです。結局、マリナがそこで寝ちゃうんだけど、なぜそこで寝たいかっていうと、「布団のにおいがいい」っていうんですよね。
言語だけじゃなくて、「肉感的なもの」にも大事なことがいっぱいあると思うんです。だから、この映画のなかでは抱きしめるシーンっていっぱい出てくるんです。

その「肉感的なもの」、においもそうだし、学校に登校するとき、冬の寒い日には、子どもたちの手にクリームを塗ってあげたりとか、どれも些細なことなんだけど、そのちょっとしたことが子どもが生きていくことを支えてるんだっていうことを感じるようになったんです。それは子どもだけにいえることじゃなくて、人が生きているってことはそういうことなんだっていうことを、なんとか表現したかったのです。それが、日常の「抱きしめる」ということにつながってるし、「一緒にご飯を食べる」こともそうだし、「一緒に寝る」っていうのもそうなんです。
8年かかってやっとわかったっていうか......。生きているって、こういうことだよねって。児童養護施設っていう場所で、そのことを発見した感じなんですよね。

20120813_apn_tonaruhito_006映画では極力説明を省きました。だから、ナレーションもテロップも一切入れていません。「児童養護施設・光の子どもの家」とテロップで出したとしたら、その瞬間になんかとても遠いものになっていく感じがするんです。「職員のマリコさん」というようなテロップも入れなかったし、やりたくなかったんです。撮影させてもらった場所は確かに児童養護施設ではあるけれども、長期間、暮らしに関わらせてもらうなかで、僕が見つめているものは自分に地続きの場所であるということがわかるようになって、私のこと、私たちのことじゃないのかっていう思いがあるんです。
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児童福祉施設のひとつで全国に約580施設あり、そこで暮らす児童は約3万人(2011年10月現在)。災害や事故、親の離婚や病気、また不適切な養育を受けている等、家族による養育が困難な2歳から約18歳の子どもたちが生活している。かつては「孤児院」と呼ばれていたが、児童福祉法の制定、改正で「児童養護施設」と変更された。施設形態は大舎制(1舎につき20人以上の児童)が全体の8割と一般的。本作の舞台となる施設は小舎制(1舎につき12人までの児童)。
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『隣る人』 公式ページ(映画案内・上映情報)

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