3人のイスラエル人入植者の少年の誘拐・殺害を発端に始まったとされる、イスラエル軍による空爆。イスラエル人の殺害は許されること ではない。しかし、空爆はガザ全域に及び、市民に数百名の死傷者を出す状況となっている。一連の事態は「占領」という日常の延長線上にあるパレスチナ人の 絶望感と怒りの根源である「占領」が続く限り、このようなパレスチナ人の攻撃はやむことはない。現在、爆撃が続くガザでは医薬品や食料入手も深刻な状況に 陥っていると地元の人権活動家でもある、ラジ・スラーニ弁護士は訴える。【土井敏邦】

ラジ・スラーニ弁護士。ガザ在住で人権活動家としても知られる(2001年1月・ガザ市内・パレスチナ人権センターにて撮影・土井敏邦)

ラジ・スラーニ弁護士。ガザ在住で人権活動家としても知られる(2001年1月・ガザ市内・パレスチナ人権センターにて撮影・土井敏邦)

◆爆撃のため、負傷者の多くが病院へたどりつけず

土井:
夜は動くものが標的にされるといいますが、救急車は動けるのですか。

ラジ・スラーニ弁護士:(以下、ラジ弁護士)
爆撃は四六時中続いています。24時間ずっとで、夜に動く物体や人はすべて爆撃されます。

土井:
もし夜に負傷した場合、どうやって負傷者を病院に運ぶのですか。

ラジ弁護士:
とても難しい状況です。移動するのがとても困難なのです。昨夜、ハンユニスの海岸で爆撃がありました。住民はただカフェに座っていただけです。電気もな く、テレビも見られない状態でした。それに対してイスラエル軍は海上の艦船から砲撃したのです。5人が死亡し、20人が負傷しました。病院に駆け込むこと ができなかったからです。その1人は脚が切断され、本人がその切断された脚を抱えてジャーナリストたちに見せたのです。とても過酷な状況です。イスラエル は、女性や子どもを含めたガザ住民の被害などまったく気にかけないのです。

◆医薬品なども不足、食料入手も深刻な状況に

土井:
医薬品はどの程度不足しているのですか。

ラジ弁護士:
ガザの保健省の大臣が昨日(7月9日)私のところに電話をしてきて、病院で必要な医薬品の種類の25%が不足しているとのことでした。さらに他の25%も明日までに底をついてしまうというのです。

今朝(7月10日)までの負傷者は520人です。その負傷者のすべてに薬品や手術、縫合糸が必要です。その基本的な薬品がないのです。とても深刻な 状況です。いつもなら、エジプトとの国境が開かれ、エジプトやトルコやチュニジア、フランス、英国から医薬品や医者や看護師など医療関係者たちがエジプト から入ってくるのですが、今は誰も救援に来ません。国境が封鎖されているからです。もちろんイスラエル側の境界からも入ってこれません。だから殺戮、負 傷、破壊がさらに深刻なレベルとなっているのに、明日(7月11日)までに医薬品の種類の50%が底をついてしまうのです。

ICRC(赤十字国際委員会)ガザ支部の幹部と昨日話をしましたが、2、3日の間に医薬品を搬入しようと試みていますが、それはわずかな量で、不足している薬品すべてを補うものにはならないとのことでした。それさえできなければ、さらに深刻な事態になります。

それ以外にも、手術や透析のための電気が不足しています。またガザ全体が燃料不足に陥っています。これは人為的、意図的にもたらされた事態なのです。

土井:
食料はどういう状況ですか。

ラジ弁護士:
ガザ地区では野菜や果物などが生産できますから、いまのところは人びとはなんとかしのいでいます。しかし今後、どうなるか分りません。現在、イスラエル側から物資が入ってくる検問所は機能していないため、まもなくこの問題は深刻化することになるでしょう。

ガザ住民の85%に食料を配給しているUNRWA(パレスチナ国連難民救済事業機関)は厳しい状況に直面しています。深刻な財政難のためであり、食料を搬入できないのです。すぐに食料配給ができない状況に追い込まれるでしょう。しかも今はラマダン(断食月)です。

土井:
イスラエルは、ラファとエジプト側との地下トンネルも爆撃していると聞いていますが、どういう状態でしょうか。

ラジ弁護士:
全体としてトンネルは機能していません。物資の搬入はできない状況です。この2、3日間、ガザ・エジプト間の14キロの国境線沿いの地域全体をイスラエル軍は爆撃しています。しかも特殊な爆弾によってです。とても重量のある爆弾です。

土井:
外国のジャーナリストはガザにいるのですか。

ラジ弁護士:
昨日(7月9日)から外国人の存在を確認できました。BBCワールド、BBCチャンネル4、BBCラジオ、それに「シュピーゲル」などドイツのメディアな どです。だから昨日から外国のメディアの存在について話ができるようになりました。特派員たちがガザに入ってきています。

◆これまでにない危険な状況

土井:
2012年のガザ攻撃と今回では何か違いがありますか。

ラジ弁護士:
空爆のレベルも質も違います。今回はF16戦闘機、ドローン(無人航空機)、戦闘ヘリコプター、地対地ミサイルなどあらゆる武器を駆使しています。また標 的もガザの指導者たちの大半の家を攻撃しています。すでに125軒のハマス指導者たちの家が破壊されました。ハマス指導者たちは誰もがその家を破壊され、 さらに死傷者が出ています。

もちろん2012年のガザ攻撃もひどいものでした。しかし今回は住民を心底からの恐怖に陥らせています。前回はイスラエルも一般市民の被害を避けよ うと注意を払っているようでした。しかし今回は誰もがこの攻撃から逃れることができないのです。自分の家に留まっていたとしても、比較的静かな地区に住ん でいても、家が空爆の衝撃で揺れるのです。家の天井が自分の頭上に崩れ落ちるのでは感じるほどです。私は今60歳ですが、こんなことは人生のなかで一度も 経験したことがないほど過酷な状況です。(つづく)

【聞き手:土井敏邦】
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【ガザ攻撃】
6月末、パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸で行方不明になっていたイスラエル人の少年3人の遺体が発見され、イスラエル政府はイスラム原理主義組織ハマスの犯行として非難。今月初めにはこれに対する報復と見られるパレスチナ人少年殺害事件がエルサレムで発生。少年は焼き殺されたと報じられたことから、自治区ガザでは抗議が広がり、ハマスがロケット砲撃をおこなった。イスラエルはただちに報復を決め、本格的な空爆作戦を開始。爆撃は広範囲にわたりハマス幹部宅やハマスのロケット弾発射地点など1000か所を超え、女性や子どもを含む一般住民に多数の犠牲者が出ている。またハマス側も数百発を超えるロケット弾で応酬を続ける。ガザ攻撃は過去にも何度も起きており、2008-2009年にはパレスチナ、イスラエル双方の死者は千人にのぼる。その犠牲者の多くはパレスチナ住民だった。
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ラジ・スラーニ:1953年ガザ市生まれ。弁護士。パレスチナを代表する人権活動家、オピニオン・リーダー。1995年ガザ市で「パレスチナ人権センター(PCHR)」を創設。イスラエル占領時代、5年近く逮捕・拘留され、激しい拷問を受けた。長年の人権擁護の活動は国際的に高く評価され、ロバート ケネディ人権賞(1991年)、フランス人権賞(1996年)などを受賞。2013年12月、"第二のノーベル平和賞"ともいわれるライト・ライブリフッド賞を受賞。
土井敏邦(どい・としくに):1953年生まれ。ジャーナリスト。中東情勢などを中心に取材。1985年よりパレスチナ・イスラエルの問題にかかわり、現地での滞在を続けてきた。映像作品に『沈黙を破る』(2009年)、『飯舘村』(2013年)など。著書に『占領と民衆―パレスチナ』(晩聲社)、『沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る"占領"』(岩波書店)などがある。