深刻さを増すパレスチナ暫定自治区ガザに対するイスラエル軍の空爆。大規模な攻撃による民間人の犠牲者は増え続けている。パレスチナ 住民は、空爆という「直接的な暴力」だけではなく、長期にわたる占領と封鎖のなかで日常的な暴力の構造下に置かれてきた。国際社会が沈黙するなか、人間の 尊厳を踏みにじる占領政策が続いてきたことが問題の背景にある、とパレスチナ人弁護士、ラジ・スラーニ氏は訴える。(土井敏邦)

ラジ・スラーニ弁護士。ガザ在住で人権活動家としても知られる(2003年3月・ガザ地区中部ブレイジ難民キャンプにて撮影・土井敏邦)

ラジ・スラーニ弁護士。ガザ在住で人権活動家としても知られる(2003年3月・ガザ地区中部ブレイジ難民キャンプにて撮影・土井敏邦)

◆パレスチナ人組織指導者への「懲罰」~家を破壊し、家族を殺す

土井:
なぜイスラエル軍はハマスの指導者たちを狙って攻撃できるのですか。情報をイスラエル側に流すパレスチナ人の「協力者」がいるのですか。

ラジ・スラーニ弁護士:(以下、ラジ弁護士)
「協力者」はいつでも存在します。占領者がいる所には必ず「協力者」がいる。彼らが占領者イスラエルの眼、耳、鼻、手となっています。とりわけ戦闘機や無 人航空機での攻撃には協力者が必要です。「協力者」たちは標的の家や車を特定します。その動きや武器倉庫などの情報をイスラエル側に流します。

イスラエルはハマスやイスラム聖戦のメンバーたちを処断するとし、それを実行しています。しかもそれを彼らの権利だと思っている。例えばですが、私を狙うのであれば、命だけでなく、私の家も爆撃し破壊する。そして家族も殺す。

これは戦争犯罪です。組織の指導者たちへの一方的な「懲罰」を理由として、これほど卑劣な手法で殺害し、家まで破壊することは到底許されないことです。ジュネーブ条約や国際刑事裁判所でもこれらの行為は戦争犯罪とみなされます。

土井:
世界の眼はイラクやシリア情勢に向き、ガザの情勢だけまで関心が寄せられない状況です。今回の空爆はイスラエル人少年3人の誘拐・殺害事件が発端であると報道されています。

ラジ弁護士:
シリアやイラクでも深刻な事態が起きています。イエメンやエジプトやチュニジアでも同様です。パレスチナだけが特別な問題ではないことはわかっています。 しかし私たちは、この空爆を自ら選んだわけではありません。もう1つ忘れていけないのはブラジルでのワールド・カップです。世界の関心がそこに向かってい る時期に起こされた空爆というのもまた事実です。

私が腹の底から感じるのは、今のガザの状況の特別な「空気」です。一般に国際社会が事態を理解するのに2、3日を要します。今ここで起こっている事態を国際社会がやっと把握し始めています。

今回のようにテルアビブやエルサレム、昨日のディモナ(イスラエルの核施設のある町)、ハイファへのパレスチナ側のロケット弾攻撃はこれまでにない 事態です。テルアビブは麻痺状態にあります。多くの市民が防空施設に隠れ、この3日間は学校や仕事に出られない状態です。彼らは今ジレンマに陥っていま す。自分たちの安全に不安を感じ、今は「抑止力」について話を始めています。しかし誰も抑止できないのです。ガザからのイスラエル側に対するロケット弾攻 撃は続き、ガザ住民は降伏もしません。パレスチナ人は自分たちの強靭さを自覚しています。もちろん住民はイスラエルの攻撃に苦しみ、恐怖に怯えています。

しかし同時に、何の抵抗しないまま、この攻撃を受け入れる住民はいません。この被害を自分たちが求めているものを手に入れるための「代償」なのだと考える者さえいます。我々は「相手にとって都合のいい犠牲者」とはなりません。

他のアラブ世界からも連絡が届いています。エジプトからもです。この2日間に驚いたことにエジプトの知人から電話をもらいました。彼らは「パレスチナ・ガ ザへの連帯」と言うのです。彼らもとても動揺し、とても後ろめたく感じています。これがパレスチナとそれを取り巻く「空気」です。

これまでイスラエルと共謀してきた暫定自治政府のアブマーゼン大統領でさえ、今回の状況を無視できなくなっています。西岸のパレスチナメディアも変わってきています。パレスチナTVは24時間体制でガザの状況を伝えています。ヨルダン川西岸のメディアがです。

西岸の住民はガザ攻撃に抗議するデモをやり、イスラエルに対する抗議行動を起こし始めています。有効性がどれほどあるかはわかりませんが、国連の安 全保障会議でも協議が開かれています。国際刑事裁判所もイスラエルを非難し始めています。アブマーゼンはイスラエルを非難し始め、「この事態は決して受け 入れがたい。ひどすぎる」と公言しています。彼は、ハマス指導者メシャルと電話で会談し、またエジプト側に国境を開けるように要請しました。
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