◆問題だらけの実態調査

6月13日に開催された環境省委託の検討会のようす。「幅広く」意見を募ることを事実上を拒否しているとしか思えないアンケート調査が事実上承認された。(都内で撮影・井部正之)


いったい何のための実態調査なのだろうか。

中皮腫などアスベストによる健康被害を受け、国の救済制度で認定を受けた人びとに対する現在の療養手当が適当かどうかについて、環境省は7月以降、初めての実態調査を実施する。ところが、その調査が問題だらけなのだ。

アスベスト被害を受けた人のうち、労災として認められない場合であっても、一定の条件を満たせば、2006年に成立した石綿健康被害救済法で認定を受けることができる。

その認定を受け、現在療養中の被害者に支払われる「療養手当」が十分なのか、被害実態が把握されていないと2016年に開催された同省「石綿健康被害救済小委員会」で指摘された。また同12月の取りまとめでも「被認定者の介護等について実態調査を行うべき」と言及されている。

今回環境省は同法における認定業務を担う環境再生保全機構に委託し、認定を受けたアスベスト被害者に対する実態を調査する方針を表明。6月13日、実態調査の内容を決めたり、その取りまとめを実施する1回目の検討会を開催した。

同機構が会議で明らかにしたところによれば、調査対象は認定を受け、現在療養中の約1000人に加え、遺族約100人の計1100人に及び、認定を受けた人びとに対する初めての実態調査という。

問題はこの実態調査がどの程度本当に「実態」を反映したものとなるかどうかだ。

石綿健康被害救済法はアスベスト被害者に対し、「民事の損害賠償とは別の行政的な救済措置」として国が実施するもの。労災補償のような補償ではなく、あくまで見舞金的な色彩が強いと国は強調する。

同法で認定を受けると、療養中の場合は医療費の自己負担分が支給されるほか、療養手当として毎月10万3870円が支払われる。すでに被害者が亡くなっている場合は特別遺族弔慰金と特別葬祭料として計299万9000円を支払う。

検討会では、手当の支払いをしている国側が実施するアンケートであるため、回答する被害者側が認定を打ち切られたりしないかと圧力を感じ、国に対する不満を言えなくなるので無記名回答としたほうがよいと意見が出された。

実際に昨年の上記小委員会でもその点は指摘されたことであり、委員の1人が具体的な事例を説明していた。認定されている被害者の弱い立場を考慮すれば、そうした配慮がされることは当然だろう。だが、今回のアンケートでは、文面上そうした不利益は起こらないと明記するから問題ないとして、委員から何度も懸念が表明されているにもかかわらず、誰が回答したのかをわかるようにする記名式とした。
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