建物のアスベスト調査については、総務省から勧告を受けた国交省が独自に2013年7月に創設した「中立かつ公正に正確な調査」を行うことができる「建築物石綿含有建材調査者」の育成を目的とした講習制度があり、普及を図ってきた。

しかし、この講習制度は、建物の通常使用時における調査に限定。吹き付けアスベストなど「レベル1」建材やアスベスト含有保温材・断熱材など「レベル2」建材の判別方法のみを講習していた。つまり、建物の改修・解体時に必要となる事前調査のありかたや様々な種類が存在する「レベル3」建材の判別方法については対象外としてきた。

今回厚労・国交・環境の3省は国交省の調査者制度を下敷きに、建物の改修・解体時の事前調査も対象としたうえで、レベル3建材の判別についても講習する仕組みとして新たに3省共管の講習規程として定めた。

ただし、新たな講習規定では従来からの「建築物石綿含有建材調査者」を名称変更した「特定建築物石綿含有建材調査者」に加えて、新たに実地研修と口述試験を省いた「建築物石綿含有建材調査者」を設けた。

厚労省は今回の講習規程告示の意義として、上記の新「調査者」を設けて調査のすそ野を広げたことに加え、石綿則などで定める石綿作業主任者が追加要件なしに新「調査者」講習の受講が可能となったことを挙げる。従来の特定「調査者」講習を受講する場合はこれまで調査についてなんら講習も受けないまま5年間現場実務に就かなくてはならず、「不合理だった」と同省化学物質対策課は指摘する。

◆にわか「調査者」大量育成か

だが、7~8月に実施されたパブリックコメントでは異例の308件もの意見が寄せられ、新たに設けた「調査者」について、調査をできる範囲を木造低層建築物、小規模建築物などに限定すべきとの指摘が「もっとも多い意見の1つでした」(同省化学物質対策課)という。

だが、そうした意見は結局採り入れられることはなかった。規程案は「講習の内容等を規定するもので業務の範囲を定めるものではありません」(同)との理由である。

一方、専門家からは「現場を知らないにわか調査者が大量育成されることで、調査ミスが横行する現状が変わらない状況が起きかねない」と懸念する声が上がっている。

業務範囲などの法的位置づけについては、7月以降始まっている石綿則改正の「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会(座長:豊澤康男・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長)」での議論が重要となる。

いずれにせよ、調査義務を設けてから十数年も調査実施者の法的位置づけどころかそのための講習すらしてこなかった国の責任は重い。徹底した制度改正を望む。

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