◆前回の法改正以前に“逆行”

環境省・小委員会では上記のとおり、ずさんな現場実態があることを報告したうえで、同省が今後の規制強化の方向性として2案を提案。そのうち1案は現状の規制とほぼ変わらない内容だったが、もう1案は「予期せぬ箇所から石綿の漏えいが発生していないことを確認する」よう施工者に求めるもので、「一定規模・期間以上かつ隔離(上記の吹き付けアスベスト除去などの際の対策)を伴う工事に施工区画周辺での大気濃度の測定を義務付ける」という。

同省が示した資料によれば、施工区画周辺の4地点で大気測定させることになっており、これを超えた場合に指導する「評価目安」は(アスベスト以外も含む)総繊維数濃度で「空気1リットルあたり10本」である。

両省が避け続けてきた測定義務を一部だけとはいえ義務づけることには意義がある。

しかし、前記のとおり、現場からは異論が相次いだ。老舗アスベスト除去業者はこう呆れる。

「(空気1リットルあたり)総繊維数濃度で10本が基準って、環境省のマニュアルで区画・敷地境界で以前から(石綿繊維数濃度同)1本で現場管理しているわけですから、実質的な規制緩和ですよね。これに決まったら、除去業者はもうちょっと緩く管理していいんだとなりますよ」

アスベスト対策のコンサルタントも「いまどき(総繊維数濃度で同)10本基準なんて笑われるよね。環境省はマニュアルで定めた1本と主張すべき。いまもそうするよう(マニュアルで)求めているわけだから」と指摘する。

同省は2014年6月の改正大防法施行と併せて改訂した「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」でアスベスト除去作業時の施工区画・敷地境界における測定について、「石綿繊維数濃度1本/L」とするよう求めてきた。法的な基準ではないが、2013年10月に同省・アスベスト大気濃度調査検討会でとりまとめた報告書で示したうえで、同マニュアルに記載した「目安」である。

業界関係者の指摘はそうした経緯をふまえたもので、かれらの目には「敷地境界10本/L」との30年前のアスベスト取り扱い施設における基準が、建物の改修・解体などの工事では適用できないにもかかわらず、誤った解釈により半ば基準のように扱われてきた前回法改正以前への逆行と映っているのである。

ある分析機関はこう懸念する。

「現状は比較的真面目な除去業者の間でようやく環境省マニュアルに記載された1本/Lの管理が浸透してきて、良くなり始めたところです。それを10本/L基準に緩めて、10本以下ならアスベストを飛ばしてよいとなったら現場の管理が一気にずさんになりかねません」

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