5月中旬『毎日新聞』のスクープで一斉に報じられることになった長野県飯田市の明星保育園で起きたアスベスト飛散事故。園児らがアスベストに曝露した可能性があり、国会でも審議された。ところが、国会での質疑と違い、行政がほとんど対応を放棄している状態だ。(井部正之/アジアプレス)

長野県飯田市のアスベスト飛散事故発覚後、現場に立ち入りする県職員

◆専門家の調査を園側が拒否

事故が起きたのは2018年12月、保育園の園舎の改修工事においてである。子どもたちの保育中に、2階の天井裏のはりなどに発がん性の高いアモサイト(茶石綿)が吹き付けられていたにもかかわらず、適切な飛散防止対策なしに天井板を撤去してアスベストを飛散させた。

事故発覚の経緯は『週刊朝日』(9月27日号)掲載の拙稿「隠されるアスベスト飛散-すぐそばにある死のリスク」に書いたので詳細は省くが、12月20日に園を訪れた保護者の指摘で不適正作業が発覚した。

建築物などの改修・解体では事前にアスベストの有無を調査し、対策を講じることが労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)や大気汚染防止法(大防法)で定められている。ところが同保育園では保育中に園舎の改修工事を実施したにもかかわらず、大防法や石綿則で定められた事前調査や届け出、飛散・ばく露防止措置のどれもが実施されていなかった。

関連して2012~2013年の耐震補強工事でも同様にアスベスト対策が講じられていなかったことも明らかになった。いずれの工事でも保育中の子どもたち約120人と職員約30人がアスベストに曝露した可能性がある。

飯田労働基準監督署は石綿則違反で施工したトライネット(飯田市)を指導。長野県も大防法違反で同社や保育園、設計した鈴木建築設計事務所(同)を指導した。

国会でも審議されたこの問題はその後どうなったのか。現地を訪れると保護者の1人がこうため息をつく。

「保育園側が私たちの要求を6月に拒否して以来、完全に動きが止まっています。放置されている状態です」

2月18日に明星会が県に提出した「顛末書」によれば、設計、施工の2社と協議し、園児や保護者、職員に対する検診、見舞金、そして万が一アスベスト関連疾患を発症した場合の補償などについて、3者で責任を持つことを定めた「実施要綱」を作成する方針を掲げ、2月末には保護者会に提示する予定としていた。

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