連日話題にのぼる中国の反日デモ。当時中国に滞在していた加峯の眼には、センセーショナルな日本の報道とは異なる風景が映っていた。

切り取られた現実の外側で
反日デモがあった4月の上旬、たまたま別の取材があって、北京にいた。
(写真右:横断幕に「貴人網は日貨不買を断固支持する」、プラカードに「Shut up ugly Japanese(黙れ醜い日本人)」とあるのが見える。「貴人網」はインターネットのサイト名と思われる。インターネットでの呼びかけを通じて若者が集まったことが指摘されている。(4月9日北京 写真提供:イ・ゴンヘ))
日本の家族や友人から、
「デモすごいね。大丈夫?気をつけるように!」

と次々メールが入る。・・・気をつけるもなにも、デモなんて一向に出会えないんですけど。口コミやネットの情報をもとに駈けずり回って探しているというのに。ちょっと不機嫌になる。
不覚にもデモの現場を目撃しそびれてしまったのは、一万人規模のデモがあったとされる4月9日、前から予定していたインタビューのため郊外に行ってしまったからだ。それ以降、デモの動きは上海や瀋陽など中国各地に拡大したものの、北京では当局によって完全に封じ込められたようだった。

デモとの遭遇を目指して北京中をさまよった私ですらこの有様なのだから、平日だった4月9日に普段どおり働いていた北京市民の大半には、「デモ?ああ、なんか、あったらしいねえ」程度の認識しかない。
テレビの常とはいえ、「デモ隊暴徒化」という突出した現象だけが映像として切りとられ、繰り返し日本で流されている。そのことによって、画面に溢れる敵意と暴力が、そのまま現実の中国ないし中国人のイメージとして定着していくことを私は危惧する。

たとえばうちの祖母も、私が帰国するまで、
「孫(私のこと)が襲われる!!!」
と騒いでいたようである。結果的にではあるが、またおばあちゃん不孝をはたらいてしまった。
今回、北京にいるあいだ、タクシーの運転手からどこの人間か、と尋ねられると、
「日本人です。いまはちょっと言いにくくなってしまいましたけど」
と答えて、議論の糸口を作るようにしていた。もっとも典型的な応答は、以下のようなものである。

「アイヤ!お嬢ちゃん、なーに言ってんだよ!気にすることないって。悪いのは日本政府だよ。政府は政府、人民は人民、そうだろ?」
表現や力点の置き方に違いはあっても、「われわれが文句を言いたいのは日本政府であって、人民ではない」というのは、五人と話したうち三人に共通する言い分であった。(ちなみにあとの二人は、日本人と知るや私に殴りかかってきた・・・はずもなく、一人は何か言ったのだがすごいベランメエ口調に私の耳がついていかず、もう一人はなぜか突然、中国政府批判を展開し始めたのだった。)
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