軍高級幹部を引き連れて視察中の金正日(「太陽と青春」(金星青年出版社 1999年)より)

軍高級幹部を引き連れて視察中の金正日(「太陽と青春」(金星青年出版社 1999年)より)

 

「将軍様」を豚がお出迎え?
我々は、「共産軍(人民軍の軍人)」よりも、自分が持っている地雷探知機や金属探知器を信じている。完全に包囲されて監禁された軍人たちには、腕時計とナイフ、鍵と錠、小銭をすべて提出させた。

そうやって一人一人を厳重に検査し、運動場に集合させた。彼らにはこれから、「歓迎群衆」の役をやってもらわなければならないのだ。
××号別荘を出た行事の隊列が到着する時間も迫ってきた。
ところが、その時突発事が起こった。人間は少しも動けないようにしているのに、豚舎の豚たちがブーブーと鳴きながら、恐れも知らず腹が減ったと抗議し始めたのだ。

豚舎当番まで撤収させてしまっていたため、豚どもは決まった時間に水が飲めなかったのだ。
腹を空かせた豚がうるさく鳴きわめく豚舎は、行事コースである養魚場のすぐ上にある。非常事態だ。
「おい! ここの豚舎当番は誰だ? 豚に水をやれ!」
豚のおかげで拘束を解かれた豚舎当番が、せかせかと水やりに走ると、保衛軍官が二人もついて行った。

豚たちが水を飲んでやっと鎮まると、ちょうど行事の車が到着した。皆安堵のため息をついた。
氷のような雰囲気の大隊運動場に、将軍様を乗せた車が入った。
車が止まると慌てて先に降りた副官が、車のドアを開ける。それと同時に、区の分隊の指揮官である部隊長が出迎えの敬礼をしたまま正歩(軍の正規の行進法)で近付いた。

区部隊員の内部評価書では、普段は傲慢なことで有名だというその部隊長が、このように大げさなことをしたせいか、区分隊の軍人たちは皆、白けた表情をしている。

出迎えの報告を受けた将軍様は区分隊長と握手し、彼の案内を受けると、ぼーっと立ちつくしている兵士たちには目もくれず、食堂の方へ行ってしまった。
するとみるみる、隊列はばらばらになってしまった。我々は慌てて隊員たちの前に出て行って制止した。
「おい、おい! そのまま気を付けし、じっと立ってろ!」
並んでいた兵士たちの顔が歪んだ。
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