「だけど、指導員の先生は、クズ鉄が一〇〇ウォンに上がったって言っておられたけど。一キロ一〇〇ウォンとかするらしいんですよ」
ヒョクは、そのあたりのことは自分がよく知っていると言わんばかりに得意げに答えた。
「クズ鉄の買取所では四〇ウォンです」
「四〇ウォン? 四〇ウォンで買うの?」

「買取所へ持って行ったら四〇ウォンで買ってくれるんです」
「まあ! ホホホ」
先生が笑って済ませようとするのを、私は見逃さなかった。
「一キロ一〇〇ウォンずつ出させといて、買取所では四〇ウォン? じゃあ、残りの六〇ウォンはどこへいくわけ? で、そのクズ鉄はどこから来るわけ?」
先生は困った表情をした。(注3)

「そうですねえ、本当にねえ......。うちの学校の先生たちも、あんまり少年団でいろいろ出せって言うものだから、私たちも頭が痛くて、授業中、顔を上げていられないくらいなんです。
ある先生は、『うちのクラスでは、税外負担が多すぎて、子供たちが学校に来ない、そのせいで長期欠席する子もいる』って言われるんです。他の先生たちも『上に提起して何とかしてください』って言ってます。

でも、指導員たちのほうでも、ずっと提起し続けているけど、なかなか受入れられないって言うんです。『とにかく、われわれももどかしいんだ。われわれもみな無理だと言ってるんだ』って」
「ふん、そりゃそうでしょうよ。どうしようもないわね、ほんとに」

先生の言いたいことは分かるが、つい鼻で笑ってしまった。
「『どこかに訴えられないものかしら?』先生たちもみんなそう言ってるんです。ほんとに、もう。こんな訴えはこれまでもいっぱいあったんでしょう。私たちが言ってるくらいなんですから」

「訴え? やれやれ、まったく、のん気なものね。訴えたりしたら子供たちが苦労するだけじゃない!」(注4)
(つづく)

注1 学校での教科書供給率はこの一〇年の間、五〇%にも満たない状況である。
しかもほとんどが上級生からの「お下がり」教科書である。教科書が古いため、現行の教育内容と違っているものまである。
注2 朝鮮は「税金のない国」を自称してきた。無料の学校教育の現場であれこれ持ってこいと言われることを、一般に皮肉を込めて「税外負担」と呼ぶようになった。

最近ではこの言葉は禁句とされてしまったが、本質が変わらないので民衆の間で使われ続けている。
注3 実際にクズ鉄を持ってくる代わりに、一キロ一〇〇ウォン計算での現金納付も認められているのだ。
注4 訴えを起こせば関係者全員が呼び出されることになる。

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