皆が先を争って買うようになり、スタイルコートを着ていないと、ちゃんとした女性とはいえない、と言われるまでなったのだ。
ところが、糾察隊(注1)がスタイルコート、特に膝下の長いコートを着ている女性たちを有無を言わさず取り締まり始めた。
「膝上丈だとスタイルコートの意味がないのに」

「まったく何も分かってないんだから」
「つまり私たちには未開のままでいろってこと?」
取り締まりのあまりの厳しさに、泣く泣くスタイルコートを膝上に直して着る女性もいた。

だが、おしゃれに敏感な人たちは、そんなことしたら「まともな服を捨てるようなものだ」と言う。九〇年代の「苦難の行軍」を経て自我の強くなった多くの女性たちは、身銭を切って買った大事なスタイルコートを絶対に切ろうとしない。
「表通りで取り締まるんなら、裏通りを歩くまでよ」

そう言いながら、取締隊の目を盗んで、膝下丈のスタイルコートを着て歩く。
人民が新式の服を着ることを国家はどうしてこんなに嫌うのか。

結局、国家が一番憎んでいるのはアメリカでも日本のヤツらでもなく、この国、この土地で暮すわれわれ貧しい人民なのだろう。
純朴に見えても、権力者たちの悪行を知り尽くしているのは人民だから、憎くて仕方がないに違いない。
資料提供 ペク・ヒャン(白香)
二〇〇六年一一月
(整理 チェ・ジニ)
注1 服装や髪型、金日成バッジをつけているかなど、朝鮮式風紀を守っているかチェックする。女性同盟、青年同盟、学生同盟などの社会団体の任務のひとつ。

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