列車の中。制服姿の軍人は警務官、後姿が女性乗務員。警務官は、軍人の犯罪や不良行為に目を光らせる。(2005年5月 リ・ジュン撮影)

列車の中。制服姿の軍人は警務官、後姿が女性乗務員。警務官は、軍人の犯罪や不良行為に目を光らせる。(2005年5月 リ・ジュン撮影)

 

二〇〇八年九月×日、正方山(チョンバンサン)駅に停車していた沙里院(サリウォン)発―羅津(ラジン)行の列車は、出発を知らせる汽笛を鳴らした後、ゆっくりと動き始めた。

その時、ホームにいた背嚢を手にした一人の軍の将校が列車に走り寄り、なんとか客車の扉の手すりを掴んだ。
相手が軍人だったからなのかどうか分からないが、乗客の誰かが列車の扉を引いて開けてやった。その将校は手にしていたリュックをまず列車の中にひょいっと放り入れ、乗降ステップにやっとのことで足をかけて上がりこんだ。

するとその後ろに続いて、若い女性が走りながら、扉の手すりを掴んだ。さらに後ろにも、連れと思しき男性が走ってきていた。
女性は開いている扉を目がけ、片方の足をステップに乗せて必死に体を引上げようとしている。

ちょうどその時、若い女性乗務員が切符の点検をしながら、その乗降口付近にやって来て、まさに列車に上りかけているその女性を見つけた。
さっき扉を閉めたはずなのに、誰が開けてやったんだろうか。乗務員はひどく苛立った。

列車のスピードはだんだんと上がっていった。
「なんだ、こいつめ!」
女性乗務員は、獲物を見つけた狼のごとくその女性へと駆け寄り、体を蹴りつけた。

女性は後方に滑るように、力なく列車から落ちていったのだが、あろうことかすぐ後ろを走っていた男性とともに、車輪に巻き込まれてしまったのだ!
女性乗務員の蹴り一発で、二人の命が一瞬にして消えてしまったのだった。
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