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国家が情報を隠蔽するとき

4 法務省による非公開要請
米兵犯罪裁判権をめぐる日米密約が、米政府解禁秘密文書で明らかになり、それが法務省の秘文書(『実務資料』)で裏付けられても、日本政府は密約の存在を否定している。

『実務資料』は国会図書館が古書店から購入し、1990年以来、蔵書として公開していた。誰でも閲覧できた。ところが、急に昨年、2008年6月に閲覧禁止になった裏には、密約の存在を否定する日本政府の姿勢がある。

『実務資料』が閲覧禁止になるよりも以前に、新原は国会図書館でそれを閲覧し複写していた。
新原が、国会図書館の所蔵資料利用検索システムから『実務資料』が削除されているのに気づいたのは、昨年6月下旬だった。

日米安保の密約問題を取材していた私は、新原を訪ねた折りにそれを聞き、昨年7月23日、国会図書館へ行き、総合案内で同資料について尋ねた。
係の職員は削除の事実と理由を知らなかったが、図書館の担当部局に連絡をとり、「出版者から公開を止めてほしいと申し出があり、利用禁止にした」と答えた。

出版者といえば法務省刑事局である。翌日、私は法務省刑事局に電話で問い合わせてみた。すると、担当者はこう説明した。
「この資料は法務省の文書規定により秘文書扱いで、国会図書館にあるのはふさわしくない。日米地位協定に基づく日米合同委員会の合意事項が載っており、それは日米両政府の信頼性に基づき公開しないことになっている。5月にインターネットで検索して国会図書館にあるとわかり、非公開にするよう要請した」

要請文書の内容と日付を尋ねると、上司に相談してみるという。2時間後に電話すると、「今回の件に関しては今後、一切回答できない」と取材拒否の言葉が返ってきた。
私は強い疑問を覚えた。沖縄や神奈川などの米軍基地周辺をはじめ、各地で米軍人による殺人や傷害、暴行、強盗、強姦、住居侵入、轢き逃げなどの犯罪が繰り返されている。ところが、本来裁かれるべき米兵犯罪も密約によって見逃される場合があると、『実務資料』の内容は示している。

そんな重大な資料を秘密にするのはおかしい。立法機関の国会に属す国会図書館の蔵書を、行政機関の法務省が非公開要請するのは、民主主義の三権分立の原理からしても筋違いではないか。「知る権利」を侵害し、国会審議に必要な議員の調査活動も阻害する。

こうした疑問を投げかけたが、「一切回答できない」の一点張りだ。『実務資料』に載っている合意事項や通達についても、「そのようなものがあるかないかも回答できない」と、頑な姿勢に終始した。
後日、同要請のあった5月当時の法務大臣、鳩山邦夫衆院議員(自民党)に問い合わせると、
「この件に関して一切説明を受けていない。法務省にも確認したところ、説明しなかったことを認めた」と答えた。

法務大臣も知らないところで、官僚組織が独断専行していたのである。
日米地位協定に関して中心的な管轄官庁は外務省だ。この件で外務省は法務省と連携したのかどうか、外務省に質問すると、以下の通りの回答が文書であった。

「当省は法務省との間において、日米地位協定の運用に関し、日常的に連絡を行っていますが、当省と法務省との間の具体的なやりとりについてはお答えすることを控えさせていただきます。お尋ねの件に関して、当省は国会図書館と連絡を行なったことはありません」
法務省との連携を否定も肯定もしない灰色の回答である。

私は情報公開法に基づいて法務省に対し、国会図書館への非公開要請文書の情報公開請求をした。    つづく(文中敬称略)
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