主導者は金ジョンウン?
Q:今回の「貨幣交換」を主導したのはセッピョル将軍(新星将軍)の金ジョンウンだという話があるそうですね?
カン:そうです。「セッピョル将軍」は秀才で、経済を立て直して良い生活を送れるようにしてくれる、今回の「貨幣交換」も「セッピョル将軍」が立てた政策だ、という噂が出回っていました。金正日が登場し始めた時と同じように(宣伝)しているんだろうなと思っていました。

でも誰も表立っては口にしません。一言でも後継者に関する話をしたら警察ではなくて保衛部に連れて行かれますから。そうなったら下手したら死んでしまうし、誰も住まないような山奥に追放されてしまうのに、誰が表立って話をしますか。

Q:一人当たり五〇〇ウォンを現金で支給してくれたそうですが貰いましたか? それも「セッピョル将軍」の配慮金だとか。
カン:はい「配慮金」だそうです。私たちは四人家族ですから、二〇〇〇ウォンもらいました。

Q:それでは人々は、この度の事態を「セッピョル将軍」の失政だと考えるのではないですか? 「貨幣交換」のせいで大変な被害と混乱が生じているんですから。
カン:たとえそう思っていても、われわれ朝鮮人はそんなことを吐露したり、話すことはできません。できるとしても、自宅で家族たちとだけです。私は一晩のうちに借金の山の上に座ることになったので、こんなことを言いました。

「えい、どこの犬畜生がこんな馬鹿げたことをしたんだ? あのてっぺんにいる奴ら、下衆野郎は死んでしまえ、どうして安重根(アン・ジュングン)(注1)のような人間が出てこないのか」と。そしたら娘が恐ろしがって、そんなこと言うなと頼むんです。私だって家の中だから話せるんですよ(笑)。

そんなに無防備では命がいくつあっても足りません。うちの人民班は三〇世帯ですが、警察小組、保衛部小組、党小組など、秘密事業(密告)を行う人がいますから。話せるのは子どもにだけです。夫には話せませんよ。将来もし離婚したら、ばらされるかも知れないから。そういう例が実際にあるんです。

とにかく皆、政治には不満だらけなんです。「あの下衆野郎」と言いたくなる。「朝鮮も中国吉林省の一部になってしまえばいいのに」って、人々は陰でこそこそ言うようになりましたよ。

Q:それはすごい表現ですね。
カン:それぐらい経済も悪いんです。絶望してるということです。
(このインタビュー、終わり)
注1 抗日独立運動家。一九〇九年にハルピン駅頭で伊藤博文を暗殺した。圧制に立ち向かう人物の象徴として、朝鮮ではしばしば例に挙げられる。

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