アッシリア時代から栄えたモスルは聖書にも名を残す歴史ある都市で、現在、人口はおよそ200万人。スンニ派、クルド人、キリスト教徒などがモザイク状に暮らし、交易で栄えた街だ。フセイン政権時代はバース党の一大拠点でもあった。(2010年4月/撮影:玉本英子)

この街の治安回復作戦が効果をあげるかどうかがイラクの安定を左右する、と政府は表明し、モスルでの徹底した掃討作戦に力を入れている。
私は、ここで治安警備の最前線で武装勢力と対峙するイラク軍部隊に同行取材を試みた。

まず旧知のイラク陸軍司令官と連絡をとった。以前にもこの司令官の部隊に同行させてもらったことがある。
そして、モスルでもっとも激しく武装勢力掃討作戦が戦われている最前線地区の取材を願い出た。
久しぶりに会った司令官は、懐かしそうに私を出迎えてくれた。

肩章の星のマークが前よりも一つ増えている。階級がまた上がったようだ。
いまイラク人がおかれた最も厳しい状況を取材して伝えたい、と私は思いを伝えた。
彼は私に向かって、黙って腕を組み、首を横に振った。

「いま、きみをあんな危険な地区には送れない」。
ではどうすれば可能となるのか。

こちらから具体的に提案をしながら私は懸命に話を続けた。
すると、司令官は根負けしたように言った。

「きみは女性なのにイラクの男も怖がるような危険なところばかり行くんだな。
では、許可しよう。ただし安全上の約束ごとをいくつか守ってもらう。
イラクで起きている現実をしっかりと見ておくがいい」
彼はいつもの鋭い目をした険しい顔を崩さなかった。
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