2001年から解体が始まっている東海原発。タービン建屋は管理棟にかくれて見えなかった 2005年10月撮影:井部正之

 

◆多少の被害は「認められる」
経産省はクリアランスレベルについて、「公衆の限度である1ミリシーベルトの100分の1であり、人の健康への影響が無視できるレベル」だと説明してきた。
これは安全委の報告をはじめ国会での質疑でも繰り返し使われた説明で、経産省に問い合わせても真っ先にいわれることばである。

それにしても「人の健康への影響が無視できる」とはどういうことか。前出の建部さんはこう解説する。
「クリアランスレベルのリスクは、100万人に1人がガンや白血病で死亡するというものだそうです。それぐらいであれば認められる、というのです。さまざまな経路からの被曝があるので実際にはこの10倍くらいになることもあると国も認めています。これだと自動車事故で亡くなるリスクの10分の1になる。こんな制度がどんどん作られたら、とんでもないことになります」

のちの政府交渉で、リスクが少ないから認められるというのではなく、「なんら影響を及ぼすことはない」との説明に変わったという。
だが、経産省に確認してみると、「それくらいなら認められる」とあっさりいってのけた。人が死ぬことになんの痛痒も感じていない、想像すらしていない口調にあぜんとした。

クリアランス制度の目的についての政府の公式見解を要約すれば、「原子力の活用で発生した廃棄物の有効的かつ合理的な処理・処分と資源の活用」といったところだ。だが、本音は「処分コストの軽減と跡地への原発建設」である。
事実、クリアランス制度の実施により一基の原発で100~150億円の廃棄物処理費用が浮くといわれ、政府もその効果は認めている。

いずれにせよ、政府のいう「合理的な処理・処分」というのが国民の被曝と一定の犠牲を当初から見込んだものであるということだ。
「こうした低い線量の被曝では原爆などと違って劇的な影響はでませんが、免疫力が低下するので、どんな病気にもなりうる。発生確率が低い白血病やガンが多いと見つかりやすいことはありますが、ふつうは被害を受けても原因がわかることはまずない。ひと知れず被曝が進行する可能性があります」と原子力資料情報室の西尾漠さんは話していた。
「なんらかの被害があってもおそらく原因がわからないはずだ」ということがクリアランス制度の導入を決める判断に影響しただろうことは想像に難くない。
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