●「歯が抜ける」近隣のダラハイ村

レアアース湖から2キロほど離れたところに、人口2000人ほどの打拉亥(ダラハイ)村がある。訪れると、集会場のような所で村人たちは麻雀に興じていた。村人によれば、ここでは、数年前から多くの人の歯が抜け始めたという。
「5、6年前から(歯が)抜け始めた。半分ずつ崩れてきて、それから抜け始めた」(王某さん52歳)

「歯が取れた時は、黒く腐食していた。自然に抜けてきた。それを見るともう黒くなっていた」(趙某さん39歳)

そう訴え、ニッと笑って見せる住民たちの歯は、確かに不自然に隙間があいている。中には、黒く変色しているような歯もある。住民たちは、この原因がレアアース湖の影響による地下水の汚染だと考えている。
「私の歯も全部崩れ落ちている。ずっと地下水を飲んできたけど、数年前からは北の方に井戸を掘って、水を引いて飲んでいる。ここの水はもう全てダメになっている」(張某さん・58歳)

地下水を使って灌漑していた畑は、荒れ、作物が育たなくなったという。農家の男性が案内してくれた畑は、かつてはトウモロコシを植えていたというが、今は、乾いた土に下草が伸びるまま放置してあり、とても耕作地といえる代物には見えなかった。

歯の異常は人間に現れているだけではないらしい。男性はあきらめたかのように次のように訴えた。
「羊がここの草を食べて1年くらい経つと、歯が黒くなってそれ以上飼うことができなくなる。歯が黒くなって餌を食べることができなくなるから死んでしまう」

歯の異常以外に、腰が痛い、足が痛いという人も多いと住民は訴える。ある女性は「歯が崩れたり、骨が緩んだりする」という表現をした。その他にも、脳梗塞や癌を患う者も多いという。

衝撃を受けたのは、70歳の王某さんに会った時だった。顔の右半分が、ぐちゃっと表現して良いほど変形していたのだ。歯茎や目の下の骨を切除したという。妻によれば、癌が転移したものらしい。王さんは、その病気の原因は、水にあると思っている。
「(水に含まれる成分については)知らない。レアアースを洗っていた。ダムの中にレアアースがいっぱい蓄積されている」

手術で顔の骨を切除したという男性。レアアース湖の水の影響で発病したと思っている(2013年5月22日)

手術で顔の骨を切除したという男性。レアアース湖の水の影響で発病したと思っている(2013年5月22日)

 

宮崎紀秀
1970年生まれ。元日本テレビ記者。警視庁クラブ、調査報道班などを経て中国総局長。中国滞在は約6年。北京在住。

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