家主人イサム・ジュウダとその家族。2014年のガザ攻撃で妻と子どもら5人が即死。イサムと三男ターエルだけが生き残った

 

◆ガザ攻撃の生存者・ターエル少年

「1日に21時間も電気がないので、暑くて、停電中は特に神経質になります。夜は、暑苦しくて眠れないので、外で寝ています。この暑さのために、アレルギーになってしまいました。身体中をかきむしってしまうので、皮膚が赤くなっています。

テレビですか?電気があれば、アニメ番組を観られるけど、停電で十分に観られません。電気がないときには、外で雑談をして過ごします」 「いつも攻撃されたときの夢を見ます。お父さんの横に座っていて、その時、ミサイルで攻撃され僕たちは死ぬんです。他にはきょうだいと遊んでいる夢です。

みな楽しそうなんです」 「夜、灯りがないとき、怖いんです。自分の場所にじっとして動かないようにしています。何が怖いかって?幽霊の夢を見るんです」  ターエルの“足”となる電動車イスの充電も、停電のためにままならない。叔父や叔母などの家々を転々としながら、4時間ほどかけて充電をしなければならない。それで動けるのは1~2日間だけだ。

ガザ地区唯一の発電所。イスラエル、エジプトからの燃料供給が激減し、ガザ地区で必要な電力の数十分の一しか発電できていない(2017年7月、ガザ地区中部で撮影 土井敏邦)

 

◆停電がもたらす心理的な影響―心理療法士ザヒア・エルカラの解説―

「電気がないという状態は私たちの社会にとってとても危険な問題をもたらし、さまざまな面に悪影響を及ぼします。 まず人間の身体と心の調和への影響です。私たち人間には、特に夜、灯りが必要です。灯りがなければ、人は徐々に気分が落ち込み悲哀の感情が強まり、うつ状態になることが科学的に知られています。

また電気のない状態は私たちに“恐怖心”を抱かせます。とくにガザで過去3回体験した戦争の時の衝撃、トラウマが蘇ってきます。さらに停電は人に苛立ちと不安を生み出します。家族の間においてもです。家族間の意思疎通が少なくなります。貧しく家が小さければなおさらです。

小競り合いが生まれ、ますます意思疎通がうまくいかなくなる。 気晴らしの娯楽のために外出しようとしても、失業状態と貧困のために、その娯楽を楽しむことも難しい状況です。 また家庭内に互いを非難しあう状態が生み出されていきます。とりわけその非難は、家族の生活に責任を負う父親へと向けられます。

父親は家族の要求に応えられないために、その非難に対して暴力で返すようになる。夫の妻や息子たちへの暴力は、その息子が弟たちに暴力をふるうというふうに連鎖していきます。その暴力はほんの些細な理由から起こってきます。人びとは神経質になり苛立ち、ものごとを実際よりも大きくしてしまうのです。

この電力危機は、人びとのものの考え方にも悪影響を及ぼしています。つまりこれがガザ住民を人間として侮蔑する、政治的な目的のためなのだと知り、それが人びとをさらに絶望感へと追い込んでいるのです。多くの住民が、『今のこの状況は、過去3回のあの戦争のときの状況に似ている』と言い始めています。

人びとは『自分は不能で無力だ』と考えるところまで行きついています。そして自分たち自身を責めるのです。『犠牲者』と感じ、いま自分たちに起こっていることは、敵に抵抗したためだと考え、敵に対して降参すべきだとさえ感じているのです。 私たちの要求はとても低くなっています。私たちが欲しいもののすべては電気や水であり、『生存すること』なのです。

そして『生存する』要求のために、人としての他の多くの権利要求(例えばパレスチナ国家をもつなど)を見失わせているのです。 『いつも自分は犠牲者だ』という意識は、冷静な考え方をできなくし、道徳心を失わせ、邪悪な行動や考え方に導き、人生の中で自分たちに起こることについて論理的に考えられなくなります。

人生の規範を見失ってしまうのです。考え方や知識が歪められ、自分の世界に閉じこもり、『周囲の世界は発展しているのに、自分たちはまだ犠牲者として、支配されて生きている』『全世界が自分たちを犠牲にしている』と考えてしまうのです。それは事実ではないのですが、これがガザの人びとにさらに怒りの感情を増幅させるのです。

パレスチナ社会の空気が変わってきています。電力危機は、今後ガザの人びとにどういう影響を与えるわからない要素です。それは『自分たちは非人間的な状況に置かれている』という考え方を増幅させていくでしょう。それがさらに『自分たちは犠牲者だ』という考えに押しとどめさせることになります。 それはまた外の世界との絆を失わせてしまいます。

例えば、あなたはジャーナリストとして、一人の人間として、ガザへやってきました。それは私たちとの人間関係を築くことでもあります。しかしガザの人びとが『犠牲者』としての感情を持ち続けるならば、人びとは怒りをあなた方にも向けることになります。『このひどい状態は、お前たちの過ちのせいでもある』というようにです」 (終わり)

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