2021年の大統領選挙の投票所。反対派への徹底的な弾圧の末に行われた選挙だった。マナグア市、2021年11月。

◆「その後」のサンディニスタへの思い

2016年、ヒメネスさんは、アポストル教区の50年間を記録した書籍「貧する人々のための貧者(Pobres por los pobres)」を出版した。そこには、革命への思い半ばで命を落とした、活動を共にした仲間一人一人の名前が書き連ねてある。今も彼らを忘れることはないという。この本の中でヒメネスさんは、存命の仲間たちから聞き取った、サンディニスタの「その後」への思いを記録している。

「政権復帰したFSLN指導者が、革命のイデオロギーを裏切っている」
「FSLNの政治的方向性に失望と不満を感じている」
「(現在の)FSLNの指導者たちに対して、軽蔑の思いや疎外感を抱く元ゲリラ兵士がいる」
と、辛辣な批判も書かれている。

インタビューの中で、ヒメネスさんがFSLNへの直接的な批判を口にすることはなかった。

最後にヒメネスさんは、現在の世界を覆う資本主義社会の害悪を指摘し、「不平等と貧困がある限り、『革命』は形を変えて継続しなければいけない」と力を込めた。そして、「私たちはニカラグアで、長い戦争に苦しんできました。もはや誰も戦争は望んでいません。私の望みは、平和な世界で、共に働き、生きることです」と結んだ。(続く)

 

「キリスト教基礎共同体」サン・パブロ・アポストル教区の信徒たち。多くの若者が革命に参加し、支えた。マナグア市、1980年代の撮影。フェリックス・ヒメネス氏提供。

 

ニカラグアの40年
左翼ゲリラ・サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)を率いたオルテガ氏は1979年、ソモサ一族による独裁政権を倒し革命を成功させ、84年、大統領に初当選。90年の選挙で敗北するが、06年に大統領に復帰すると、14年、大統領の再選禁止規定を撤廃し、17年には夫人を副大統領にした。18年の反政府デモへの武力鎮圧では300人以上が死亡するなど、強権的な独裁政治が批判される。21年の大統領選で勝利し、4期連続5回目の大統領に就任した。

柴田大輔(しばた だいすけ)
フォトジャーナリスト、フリーランスとして活動。 1980年茨城県出身。2006年よりニカラグアなど、ラテンアメリカの取材をはじめる。コロンビアにおける紛争、麻薬、和平プロセスを継続取材。国内では茨城を拠点に、土地と人の関係、障害福祉等をテーマに取材している。

 

 

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