◆テントトイレ

6月9日

サバラさんたちは、8日の夜のようなことがあっても翌日には生きようとしている。その気丈さに驚かされる。寒さも暑さも逃れられないテント生活に適応しようとサバラさん家族は、トイレの設置を始めた。テントの横に、たった一人がやっと入れるだけのスペースを確保し、防水シートの切れ端と古布を使った。排水溝として間に合わせの穴を掘った。こうしてサバラさんたちは「テントトイレ」と呼んでいる場所を作った。

「以前のテント生活のときは何時間もトイレに行かないことがありました。体が痛くなっても恥ずかしい思いをするよりは我慢しました。過密状態、プライバシーの欠如、不衛生な環境。これらは人間の尊厳をゆっくりと蝕んでいきます」

自作のテントトイレ。2025年6月、サバラさん撮影

◆戦争スナックでつかの間のやすらぎを

テントでの長時間、息苦しいほどの暑さに耐えた後、サバラさんたちは何かを作ろうと決めた。そうすることで、重苦しい日々から少しでも解放され、喜びを感じられるひとときをもたらすからだ。

「ナッツや焼き菓子は市場から姿を消して久しい。占領下、検問所が閉鎖され、ガザへの物資の流入が遮断されて以来、ささやかなぜいたくも夢と化しています。かつて私たちに幸せをもたらしてくれたごく普通のものさえ、今では手の届かないものになってしまいました。ですからこれはただ料理をつくるためだけではなく、ほんの少しの日常を、ともに過ごす安らぎのひと時を取り戻したいと思ったのです」

サバラさんはこう話した。

油で揚げたひよこ豆。2025年6月、サバラさん撮影

家族は薪を探しに出かけ、火をおこし、鍋に油を少し注ぎ、ぬるま湯に浸したひよこ豆を揚げた。昔、お店で買った焼き菓子のようだったという。「戦争スナック」と名付けた。

7月21日、BBCによると、イギリスや日本を含む28か国が、パレスチナ・ガザ地区での戦争の即時停止を求めた。共同声明は「ガザにおける民間人の苦しみは、かつてないほど深刻だ。イスラエル政府による支援物資の供給体制は危険で、不安定化を招き、ガザの人々から人間としての尊厳を奪っている」と警告している。

7月22日、ガザではアメリカとイスラエルが支援する「ガザ人道財団」が5月下旬に活動を開始して以降、食糧支援を求めるガザ住民1000人以上がイスラエル軍によって殺害されている。(国連発表)。ガザ住民の間では栄養不足による飢餓が深刻化している。この飢餓は天災ではなく人災によるものだ。イスラエルによる封鎖が一刻も早く解かれなければならない。

ガザ住民は将来の不安を抱えながら、日々の爆撃に耐え、空腹やのどの渇きにも耐え、生きるために精神的にも身体的にも闘っている。サバラさんはどんな生活になっても前を向き続けている。

「これが今の私たちの暮らしです。何もないところから何かを生み出し、喜びを発明する。昔の記憶を模倣する。つかの間の安らぎ、まだ生きていることを思い出させてくれるものを必死で探します。揚げたひよこ豆の味であっても、かすかな光に変えようと、私たちは努力し続けます」

 

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【解説】パレスチナ問題とは
1948年にユダヤ人がイスラエル建国宣言したことで、第1次中東戦争が起こり、パレスチナにそれまで住んでいた多くの人が難民となった。この時からパレスチナ問題が発生した。第3次中東戦争以来、イスラエルは東エルサレム、ガザ地区、ヨルダン川西岸地区を軍事占領。
1994年からガザ地区は自治区となったが、2006年、イスラム組織ハマスが全権を握った。選挙でハマスを選んだことで、イスラエルは集団懲罰としてガザを封鎖した。ガザでは人の出入りもできず、燃料や食料、医薬品など制限された。以来17年間も封鎖は続き、4度にわたるイスラエルの侵攻の苦しみ、封鎖による経済の疲弊などで若者は希望を失い、今回のイスラム組織ハマスのイスラエル越境攻撃とつながったともみられている。

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