16日、第69回ゴールデングローブ賞の外国語映画賞を、イランのアルガル・ファルハーディ監督の映画『別離』が受賞した。
米アカデミー賞の前哨戦と言われるこの映画賞の受賞を、翌朝、イラン国内では改革派各紙が一面トップで報じた。核問題とホルムズ海峡封鎖をめぐり、アメリカとの開戦の可能性が取り沙汰されるイランで、芸術を通した相互理解に大きな希望が寄せらた。

シャルグ紙第一面。授賞式でステージに上がるファルハーディ監督(左)。受賞後の記者会見で、「イランであれ、世界のどこであれ、もはや誰も戦争を目にすることなく、それが過去のものであってほしい」と語った。

 

改革派系の新聞シャルグは、第一面の紙面全体と文芸欄全面をこのニュースに割き、イラン映画界の著名人の言葉を紹介した。映画評論家でドキュメンタリー映画監督でもあるアフマド・ターレビーネジャード氏は、「授賞式に参加した人々は、核兵器製造の容疑をかけられた国としてではなく、芸術家たちが歴史を通して平和の旗を掲げてきた国としてイランの名を聞いた」と感激を露わにした

イラン映画界の多くの著名人が、ファルハーディ監督の受賞をイラン映画界の若い世代に希望を与えるものと評価する一方、保守系各紙はこのニュースを完全に黙殺し、一行たりとも触れないという徹底した態度を取った。
『別離』はイラン国内でも公開が許され、国内の主要映画祭の各賞を総なめにした作品だが、製作途中でイスラム文化指導省から撮影許可が取り消された経緯がある。

ファルハーディ監督の前作『彼女が消えた浜辺』が2009年ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した際、受賞スピーチの中で、国内で拘留中のジャファール・パナヒ監督や、海外に拠点を移したモフセン・マフマルバフ監督といった、2009年の大統領選挙後の騒乱で改革派寄りの姿勢を取ったイラン人監督の名を上げ、「彼らが国内で映画制作を行えれるようになればよいが」と発言したことが原因だ。保守系各紙はこのスピーチを「破壊的な表明」と呼び、今回の受賞への沈黙も、この事件に起因している。

『別離』では、主人公である世俗的な中産階級の夫婦と、宗教的で保守的な家族との軋轢という、社会の二分化がテーマの一つとして取り上げられているが、今回の受賞に対する国内メディアの反応は、こうしたイラン社会の問題を浮彫りにする形となった。
【佐藤 彰】