10月にイラクの首都バグダッドで始まった反政府デモは拡大の一途をたどっている。政府の汚職体質への批判、公共サービスの改善、失業の解消などを訴えるデモの参加者の多くが20代、30代の若者たちだ。デモ隊と治安部隊の衝突での死者は300人を超えた。市民の怒りの背景には何があるのか。バグダッドでのデモに参加する青年(23歳・アルフリヤ地区在住)に電話で話を聞いた。【聞き手・玉本英子/アジアプレス】

バグダッド・タハリール広場に集まったデモ隊。参加者の多くは若者だ。(2019年11月9日撮影フセイン)

◆生活への不満が爆発

デモ参加者フセインさん(23歳):デモが行われるタハリール広場で、先月25日から大きなテントに寝泊まりしながら参加しています。平和的なデモを目指しています。音楽にあわせて踊ったり、壁に絵を描くグループもいます。参加する若者たちを支援したい、と大量の食べ物を持ち込んで配る、お母さんたちの姿もあります。

しかし、デモ隊にガス弾などが撃ち込まれ死傷者が出ています。若者たちが中心となって結成された医療班に加わり、マスクやヘルメットなどを配布したりしています。それらはすべて市民が自発的に寄付してくれたものです。

治安部隊はガス弾を撃ってきます。ガスが炸裂すると10分間は目を開けられず、息ができなくなります。30歳ぐらいの男性が、ガス弾が頭に当たって倒れるのを見ました。病院へ運びましたが、残念ながら亡くなりました。シナック橋で市民に向けて銃弾が撃ち込まれ、3人が血を流して死ぬのも目撃しました。みんな若い青年です。本当にショックでした。

死傷者があいついでいますが、若者はデモをやめません。なんとか状況を変えたいと思っているのです。友人の7割ぐらいは仕事がありません。僕はスーパーでレジの仕事をしていますが、毎日8時間働いて月給は240ドル(約2万6000円)です。半分は家族に渡しますが、実家暮らしなので、なんとか生活はできます。しかしこの給料で、結婚を考えたり、家族を養うのは無理です。仕事がない人たちはもっと苦しい状況です。このままでは自分の人生は続かないし、夢も持てない。人生は一回きりです。今立ち上がらないと未来はない。そう感じて、仕事を休んででも抗議活動に参加しています。
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