APN_tamamoto_030310a.jpgこんなに厳しい道のりになるとは思わなかった。岩山を一歩登るたびに、息が苦しくなる。私の前方では、女性ゲリラ兵たちが黙々と登っていった。イラク・イラン国境の山岳地帯で、私はクルドゲリラに合流し、ともに軍事キャンプを目指していた。

彼女たちはPKK(クルディスタン労働者党)の女性ゲリラだ。PKKは女性も男性ゲリラと同じように銃を持ち、前線で戦う。

19歳のベリヴァンはトルコ東部、アララト山のふもとの村からゲリラに参加した。亜麻色の髪をひとつにまとめ、大きな瞳とそばかすが愛らしい。行軍するゲリラのペースについていけない私の元に降りてきて、手を差し出し、ひっぱりあげてくれた。厚くて硬い彼女の手をぎゅっと握りながら、私たちはいくつもの山を越えた。

ベリヴァンは湧き水を汲んでくると言って、私に銃をあずけた。そのカラシニコフ銃は重く、ずっしりと私の肩にくいこんだ。それはまぎれもなく、人を殺す道具なのだ。
PKKはクルド人の権利を求めて20年にわたり、おもにトルコでゲリラ闘争を続けてきた。7年前、トルコ軍とクルドゲリラの戦闘が激しかった頃、ゲリラに協力したという理由で、トルコ軍に村を焼き討ちにされたクルド人の村人たちに私は出会った。これからどうやって生きていけばいいのか、と村人たちは泣き崩れていた。そんなかれらにとってトルコ軍と戦うゲリラは「希望の星」だった。

99年、指導者アブドゥラ・オジャラン議長がトルコ当局に逮捕され、ゲリラ部隊はトルコ東部の山岳地帯からイラク北部に拠点を変えた。現在PKKはKADEK(クルディスタン自由民主会議)と名を変え、「民主化路線」を唱えているが、散発的な戦闘は続いている。

イラク開戦が秒読みとされる中、イラクのクルド人勢力各派は、戦闘の準備を始めている。この地が再び戦場となろうとしている。 夜になった。私たちはようやく軍事キャンプにたどりついた。空気は澄みわたり、濡れた緑の匂いがあたり一面に漂う。べリヴァンは夜空を見上げた。美しい横顔が、やわらかな月の明かりに照らされた。

彼女は私にささやいた。「今度戦いが始まれば、私も死ぬことになるかもしれない。はかない私の命だけれど、あの星のように、いつまでもクルディスタンのために輝き続けたい」
空には、きらめく星のひかりがクルドの大地に降りそそいでいた。
(2003/03/10)

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