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【刑務所帰りのラハミさん。カエル捕りで生計をたてていた】撮影・玉本英子

 カエル捕りのラハミさん
ちいさな平屋がひしめきあう、地区のメイン通りを歩いた。
「出て行け!」 カン高い女性の声が私に向けられた。

ロマとはロマ語で「人間」という意味を持つ。反対にロマ以外の人を彼らは「ガジョ(よそ者)」と呼んだ。ケミックジ地区の人たちは私のような「ガジョ」が自分たちのエリアに入ることをいやがった。

その後、私は「刑務所帰り」のラハミ・キュリュクさん(40)と知り合いになった。彼と行動をともにすることで、地区の人は何も言わなくなった。褐色の肌と精悍な目つき。半そでのシャツの下からは青い蛇のイレズミが見えた。

ロマにとって「刑務所帰り」は尊敬の対象なのだという。傷害罪で捕まり、2年間の服役を終えたばかりのラハミさんは地区の英雄だった。
刑務所を出たばかりのラハミさんは「カエル捕り」の仕事をはじめた。カエルは加工された後、フランスに空輸され、高級食材として売られる。

カエル捕りに必要なものは、ランプとラク(トルコの酒)だ。ラハミさんはラク酒を一口飲んだあと、虫除け対策だといって、顔や手足に塗りつけた。
夜9時。月明かりの下、ラハミさんと友人2人はランプ片手に湿田地帯を歩きまわる。すると、ランプのまぶしい光に誘われて、何十匹ものカエルが集まってきた。ラハミさんはかがみながら、跳ね回る10センチほどの大きさのカエルを、素手ですばやくつかみ捕っていった。ランプの光に照らされた彼のひたいからは玉のような汗が吹き出ていた。

この日、彼らは夜明けまでに約20キロ分のカエルを捕えた。しかし、1キロがたったの約100円だ。
「ロマが生きていくには、誰もしたがらないことをするしかないのさ。」 ラハミさんはつぶやいた。

エディルネ市内の青空市場で、我が物顔で歩くロマの女性たちを見かけた。
「金は明日払うから!」 彼女たちは大声を出しながら、次々に桃をひったくっていった。
路地を歩いていた私は、金を出せ、とロマの少女たちに囲まれた。しかたなく、少額のお札をひとりに渡すと、ニヤリと笑ったその少女は木綿の長いスカートをたくし上げ、自分の下着の中にお札をねじ込んだ。

トルコではロマだけが貧しいわけではない。「貧しいから」だけでは語れないロマの人びとの行動は、時には私たちの「常識」を超えた。それは不幸にも、ロマの人びとすべてに対する偏見や差別につながっていった。 (続く)

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(初出 2001年)

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【関連動画】 「
伝統音楽に生きるトルコ・ロマの人びと
(トルコ・エディルネ発)