「うん、『平壌オモニ』は、詩じゃなくて歌ですよ」
と、私は答えた。
「そうそう、軍隊が隊列行進曲としてうたう歌だよな。
〝愛情深いオモニと一緒にいたとき……〞こうだったよな?
今では『平壌オモニ』が基本なんだ。キム・チョルが書いた詩の『オモニ』は完璧にできなくてもいい、今は『平壌オモニ』が定番だから。軍隊ではこの歌の普及を力入れてやってるはずだ。

俺も、初めは『平壌オモニ』は金正淑オモニの歌だと思ってたんだが、ずっと後になってから、それが将軍様の夫人の歌だと教えられたってわけだ。歌もいいし、よく歌ってたなあ……」
次兄の言葉を遮って、長兄が私にそれとなく聞いてきた。

「お前は、『平壌オモニ』を見たんだろう?」
「はい、一度は将軍様とオモニと娘まで一緒に、二か月勤務したこともありましたよ」
「人民軍では、将軍様の息子を『金星将軍』と呼ぶんだって?」
「……」

「もともとの最初の妻は成恵琳(ソンヘリム)とかいう名で、二番目の妻は子供を生む事ができなくて……。
金日成首領様が紹介してあげた今の夫人は、咸北道共産大学の副学長の娘なんだけど、平壌に行って何かの勉強をもう一度やったとか言っていたな。
その夫人は他の女性とは一味違っていたらしい。その夫人が、将軍様にぴったり付き添って全部仕切るんだと。

着る服とか、すべてその夫人の決裁を経ないと通過しないんだってよ」
私の仕事が行事保障事業(セレモニーの要人警護)を任務だと知っている兄たちは、好奇心に駆られて、噂話を確認しようと、末っ子の私に次から次へと質問を浴びせた。
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