「いやあ、そういうことがないもんですから」
「もういい。戻れ!」
保衛員は大声を上げながら、《こいつ、役に立たないやつだ》と言わんばかりに態度をガラッと変えた。
それ以来、奴らは私の動向を監視しはじめた。そのため、それまで以上に、仕事と言動に注意を払わなければならなくなった。他人に私の監視をさせ、言いがかりをつけようと狙い始めたのだ。

「管理所」の中は、このように監視が厳しい。それ以来、私はあらゆる場面で「他人はすべてスパイだ」と自分に言い聞かせて、気をつけて話をするようにした。そうしなければ自分の身を守ることはできない。
政治に関する話題はもちろんのこと、「管理所」内の誰かに関する話が出ても、絶対に相槌を打ってはいけない。

私には、全てが都合の悪いことのように感じられたので、思うことがあっても一切口に出さず、心の中でつぶやくだけにして生きてきた。あんなところで何事もなしに生き抜いていくには、下品な話にでも花を咲かせて、ばかのふりをして生きていくのが良いのである。

北と南
「政治家は国民を幸せにするために働く」なんていう建前を私は絶対に信じない。権力を握った者たちは、皆一様に自分のためだけに動く生き物だと確信している。
「国民のために働く」なんてちゃんちゃらおかしい。奴らは、自分は働かずに、どうすれば人を働かせて自分の腹を太らせるかしか考えていない。班長(末端の行政職)や職場長なんかの小さなポストであっても、その地位に就いて権力を手に入れたら、とにかく下の者たちにつべこべ言わせないよう服従させるのが仕事だ。

保安員、企業所の支配人、保衛部、党秘書といった権力者は、皆同じ穴のムジナだ。極度に劣悪な状況にある「管理所」でさえも、保安員たちは、どうすれば収容者の懐から金を巻き上げられるかに血眼になっている。

だが、こんな彼らの考えが、死ぬほどの苦労をしているわれわれには理解できる。なぜかというと、もはや国家が何もしてくれないからだ。自分の地位を利用してふんだくることで金を稼がなければ生きていけないのだ。国家は支払うべき給料もくれず、配給もくれないのだから、自分で何とかする以外、彼らにどうしろというのか?
ところで、南朝鮮の噂を時々聞くことがあるが、若干の不正蓄財があったりすると、記者たちは大統領であろうが何であろうがお構いなく実態を暴露するという。そんなことはありえないと思っていた。
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