ジャガイモは、主食としてはもっとも安いが、また粗末なものと考えられている。「ジャガイモは米だ」と言われて腹を立てる人はいるが、それに納得する人はいないだろう。(1999年9月咸鏡北道茂山郡 キム・ホン撮影)

ジャガイモは、主食としてはもっとも安いが、また粗末なものと考えられている。「ジャガイモは米だ」と言われて腹を立てる人はいるが、それに納得する人はいないだろう。(1999年9月咸鏡北道茂山郡 キム・ホン撮影)

 

会議場の室内温度計の水銀柱が久しぶりに二度を示している。
なぜかこの地方に、突然、中央党からの講師がやってきて、幹部講演会を行うという非常召集令が下ったため、普段はがらんとしている建物が、ここ数年で初めて人でいっぱいになったのだった。

「苦難の行軍」で(大飢饉の混乱解決の)陣頭指揮を取っている最中の金正日将軍が、何か朗報でも届けてくれるのではないかという噂に、厳冬期の最中なのに高まる期待で早まる足に導かれるように、区域の党の幹部たちが大勢集まって来た。
寒さに凍えてしまったせいか、舞台正面に掲げてある二つの大きな肖像画の顔が、青ざめているように見える。舞台の一方の端に置かれた演台の上には、消え入りそうなろうそくの火がぼんやりと灯っている。

骨の芯まで凍りつくような寒気が押し寄せるというのに、会議場の両側のドアや映写室のドアは開け放たれたままだ。ひどい電力不足のため、昼だろうと夜だろうと明かりをつけることができず、ドアを開けて外光が入るようにしているのだ。
このようにドアというドア全てを開けて室内の暗さを追い払っているというのに、部屋の中に入ると人々は一様に手探りで座席を探している。しかしそんな暗闇も、しばらくいると目が慣れてきて場内の様子がわかるようになってくる。

そうやって座席を見回してみると、幹部たちは幹部らしく、階層別に分かれてきちんと座っていた。
会場内で講演参加者たちが機械的に分かれて座ったこの座席割りの様子は、今の区域内に住む幹部たちの間の貧富の差を、何よりも赤裸々に示していた。
会場の壇上から見て右側は区域の党、真ん中は行政機関、そして左側にはみすぼらしい格好をしたインテリたちがむさくるしい姿で座っている。
近頃この区域では、銀行や糧政(食糧配給)、商業、地方産業など、金や設備を扱う行政機関の連中の勢いが最も強い。そのため、真ん中に座っている彼らが、両脇に座る者たちよりずっと態度が大きく見える。

左側のインテリたちなんかは、頬がこけてへこんでいる。右側の区域党の席の人々は、襟が何年か前に比べてかなりヨレヨレになっているように見えた。
とにもかくにも、皆が首を長くして待っていた講演の演説者は、会場の者たちを嫌というほど寒さで凍えあがらせてから、舞台の上にさっそうと姿を現わした。彼は、この時間まで開始が遅れた理由を、映写室のアンプの電源が付かなかったからだと言った。
この日の講師は、中央党の宣伝部出身の者だった。

髪の毛は整髪料をつけてつやつやさせているが、十分に栄養が行き届いてないためか、背はやや小さくて貧相だ。
しかし講演要綱を広げて張り上げた彼の声は、体つきとは違って太く堂々としていた。一同の笑いもうまく誘うことができ、講演の始まりはなんとかうまくいったようだった。聴衆は寒さで震える両膝の間に両手を挟んだまま、背中を丸めながらも耳をしっかり開いて話を聞いていた。
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