そして、メインの講演のタイトルが発表されることになった。場内は静まり返って息の音さえしなかった。
「……『ジャガイモは、すなわち米である。米とはつまり社会主義である』
皆さん、これは苦難の行軍を勝利に導いて結束させた金正日将軍様が、私たち人民に施してくださる、さらなる偉大なる愛とご配慮の結実です。
ジャガイモ革命の砲声が鳴る大紅湍(デホンダン)の白頭(ペクトゥ)高原から、まもなく白い米のようなジャガイモの澱粉が滝のようにあふれだすでしょう。

まさにその日のために、焼いた数個のジャガイモで飢えを凌ぎ、揺れる乗用車の中で仮眠を取るだけで夜をお明しになり、将軍様は白頭山の密林の雪道をどれほどかきわけられたでしょう。常に人民たちと飢えも寒さも共に分けあい……」
急に場内がざわめき始めた。

将軍様が三池淵(サムジヨン)と無頭峰(ムドゥボン)にある冬の別荘行きの途中で、大紅湍に寄ったということなんて誰でも知っている。そこに住む除隊軍人の新婚夫婦の家に、靴を履いたまま入っていった金正日将軍のふるまいをテレビで見て、人民たちは互いに舌打ちしたものだった。
その大紅湍のジャガイモ生産基地を作るのに、ここの市の区域ごとに、どれだけたくさん負担させられたというのか。「無筆」の人民は欺けたとしても、全国のあらゆる場所の建設や工事に参加し、国の情勢を知り尽くしているこの地方の幹部たちまでをも馬鹿にするつもりなのだろうか。

場内には「フン」と鼻を鳴らす音、咳払いの音、靴で床を踏む音や痰をからませる音が響き、公衆便所のような雰囲気になった。
残った講演要綱を一瞬のうちにすべて読み終えた講師は、威嚇するような視線を会場内に送り、しばらく少しも動かなかった。
「参加者は感想文をこの場で書いて、署名してからでないと席を立てないことぐらい分かってるだろうな?」
不平不満は許さないぞ、という脅しだった。

この場に集まっているのは、権力のためならばその足の裏も舐め、他人を蹴落とすことを憚らない処世術で出世した幹部たちだ。会場内はあっという間に静まり返ってしまった。

色の白い手で講演要綱の冊子を持った講師は、演台を離れてマイクもない舞台の中央に立った。講演を終わらせようとしているのだった。
「皆さん。食糧難を克服するためのジャガイモ革命のスローガンを党が提示しましたが、一部の人々の中で『人民たちが白米に肉のスープを食べ、絹の服に瓦の家を持てるようにするという金日成首領様の公約から外れる』などと語られているという報告を受け、党(ここでは金正日のこと)は心配の声が発せられました。

『今は戦後のあの時と事情が違う。ジャガイモも白米に劣らず立派な主食であり、特にガン防止にはたいへん効果がある。西洋でもジャガイモを主食にしている』とのことです」
《餓死者が出ている時に、ガンの話なんて何の意味があるのか。こんな寒い日に末端の者たちを集めるなんてイジメだ。
西洋がどうなっているのか知ることもできないようにしておいて、ジャガイモを栽培することを理由に外国から援助を受けて自分の腹を満たそうという魂胆に違いない。知らんふりをしてたって、その本心を誰も知らないとでも思っているのか?

金日成首領様が死んで怖いものなしのようだが、首領様の生前の教示だけはうまいこと使おうということだろう。
口はゆがんでいても、言葉はまっすぐであれと言っていた金日成の公約は、お前と交わしたのでなく民と交わしたのだ。本当に上の幹部たちはどうしようもないな》
会場の人々の苦々しい表情から、こんな言葉が聞こえてくるようだった。
資料提供 リャン・ギソク
二〇〇六年一二月
(整理 チェ・ジニ)

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