「先軍時代の経済体系」
石丸:その他に「経済指導」と関連した研究課題として、どんなものがあるか。
ケ:まず、現軍部による「先軍時代の経済体系」について、よく検討しなければならない。
「先軍時代の経済体系」といっても、軍事部門の司令部である総参謀本部が「経済指導」を直接行うわけではない。人民武力省という省レベルの機関や、第二経済委員会という軍需産業の統括する経済機関で行う。

軍部は不足する戦闘物資、すなわち燃料油、食糧、軍服等を自分たちで調達するという名目で、貿易会社をいくつも持っている。まずこの傘下の貿易会社の活動によって「経済指導」を行うわけだ。いや、「経済指導」というより、「軍需消費指導」と言ったほうが正確だ。
軍隊に軍事物資を補給する機関として軍需工場企業所が全国にある。これは第二経済委員会で管轄「経済指導」しており、一般行政の経済機関は関与できない(予算も全く別になっている)。

また、内閣傘下の民需産業も、国防委員会が直接指示を出せば、物資生産が軍事目的のために簡単に転換できるようになっている。
国防委員会はその他にも、国防目的のために任意の機関をいつでも内閣傘下から軍部機関に移すこともできる。
このように、「先軍時代の経済体系」というのは、国防委員会によって国家総動員さえできる非常時体制のことなのである。つまり、国家全体がいつも戦時のような状態に置かれていることを意味するのだ。

国防委員会幹部の任命は金正日が直接行うが、内実は金正日の独断機関だ。
権力構造が、国防委員会の下に総参謀本部、武力省、第二経済委員会、内閣の順となっているので、まともな「経済指導」ができるはずがないということは先に述べた。だが、これは深刻な問題である。「先軍時代」になって、重要な会議において党の政治局委員たちが軍部と違う意見を出すことができるのかというと、多くの党員や大衆は、軍部に対してそんなことはできるはずがないと疑いを持っているにちがいない。
次のページへ ...

★新着記事