この審査過程を通過したものだけを金正日が見るわけであり、そして彼がそれにサインすればその時から方針として効力を発するようになるのだ。
了解やサインの過程はすべて極秘だ。
このように、朝鮮の政策意思決定過程は、下意上達のボトムアップ式が普通だ。もちろん一部には上部から発信される政策もある。
しかし、基本的な政策決定は、専門家たちが様々な資料を検討しながら科学的に立案したものに基づいて行われるのではなく、下部で散発的に作成された提議書を承認するかたちで行われるのが普通だ。そのため、長期的な見通しがない目先のことに対する対策ばかりが立案されるという問題がそこには存在する。

石丸:それでは、提議書にOKを出した方針が誤っていた場合の責任は誰に帰するのか? 提議書を上げた人間か? サインした将軍様か?
ケ:(全ての者が)責任を回避するための一番良い方便は、「唯一的指導体系」を明記した「一〇大原則」である。
「一〇大原則」では「主体思想」に基づいて「首領に誤りはない」ということになっている。独裁政治国家朝鮮では、独裁者を擁護して、その責任は雲か霞のようにうやむやにしてしまう。

この朝鮮独特の提議書システムによって、すべての責任を「サインをした将軍様」に押しつければ、下では責任を問われない。
また金正日も「将軍様に誤りはない」という原則によって、どんなにひどい誤りを犯しても責任を問われることはない。
これで万事安泰、無責任天国である。

こんなシステムが生んだ損失と混乱は、すべて自動的に秘密の事とされてしまう。各機関それぞれが既得権を守るのに必死なので、誰の責任も問われることなく国家はばらばらである。

甚だしくは、同じ問題に対して異なった方針が金正日によって出されることがある。
こんな事例がますます多くなっているのが今の朝鮮だ。これもすべて、まともで合理的な政策決定機構が形成されないためなのだ。
(つづく)

注1 正常な国家では、政治機構の下に軍事機構が存在する。朝鮮では、国家の上に党が存在するとされている。これを利用して、現在は「軍が即ち党だ」とすることで、軍を国家の上に位置づけているのだ。それが「先軍政治」である。従って、現在の朝鮮は、正常な国家とは呼べないのである。
注2 職場長は職場の行政責任者、班長は職場長のすぐ下の行政責任者である。

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